2007年、スウェーデンに移住した宮川絢子博士は、スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務の医師である。日本泌尿器科学会専門医取得後、スウェーデンで泌尿器外科専門医を取得している。
宮川博士はこのたび、スウェーデンの新型コロナ対策の指揮をとった元国家疫学者アンデシュ・テグネル氏の著書を翻訳、『学際的パンデミック対策:新型コロナウイルスと戦ったスウェーデン元国家疫学者の証言』(法研 刊)として上梓した。
以下は、同書についての宮川博士による寄稿である。なお、日本の読者のために行っていただいたテグネル氏へのインタビューの内容も盛り込まれている。
スウェーデンの「ミニスターコントロール禁止原則」
筆者は、2007年にスウェーデンへ移住後、2008年に同国医師免許を取得し、首都ストックホルムにあるカロリンスカ大学病院で外科医として勤務してきた。
先の新型コロナウイルスによるパンデミックの際、ほとんどの国が「ロックダウン」という強硬策を採用した中、スウェーデンは「ロックダウン」を採用しなかったことは日本の読者諸氏の記憶にもあたらしいことと思う。このことは「独自路線」と評され、高齢者介護施設での死者数が非常に多かった事実もあって、「無策」であり、「人命軽視」であると誤解もされた。
だが、本当にそうだったのか。
筆者が翻訳を担当した、元国家疫学者アンデシュ・テグネル氏の著書の日本語版の裏表紙には、元駐スウェーデン日本国特命全権大使で、現日本赤十字社常任理事の渡邉芳樹氏の推薦文が掲載されている。
渡邉氏は中で、スウェーデンには「ミニスターコントロール禁止原則」があることに言及されている。行政庁は政治から独立しており、独自の采配ができるという原則である。この原則のおかげで、他国が死亡数が増えることによる社会からの批判を怖れ、エビデンスなしに強硬な手段を選択せざるを得なかったのに対し、スウェーデンは、「社会からの批判」に影響されずに信じる道を進むことができたのである。



