欧州

2025.10.28 14:15

「マスク効果にエビデンスなかった」。元国家疫学者、『手記』でスウェーデンコロナ対策語る

スウェーデンの新型コロナ対策の指揮をとった元国家疫学者アンデシュ・テグネル氏

「ユニバーサルマスクの効果」にエビデンスはない

マスクや面会制限に関し、テグネル氏に意見を聞いた。マスクについては、病院などの必要な場面で使用するマスクに関してその効果があることは確かであるが、ユニバーサルマスクに関しては効果があるというエビデンスはないというのが、コロナ禍以来一貫して変わらないテグネル氏の見解である。

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スウェーデンでも一時期、病院でマスクの使用が義務付けられたことがあったが、マスクの使用法は医師であってもかなりいい加減であった。感染患者や免疫不全の患者の診察、手術時には正しくマスクを使用していても、それ以外では正しく使用できていない。ましてや、広く国民に推奨するユニバーサルマスクが正しく運用されるはずがないし、マスクの質に関しても雑貨程度のものも多い。

日本では、新たな感染の波を睨み、面会制限を新たに始めたり、コロナ禍以来、面会制限を継続している医療施設が存在するが、面会制限についてもテグネル氏にインタビューした。彼の答えを訳本から引用する。

病気で苦しんでいるときや、死期が近いときなどに、大切な人と会えるということは、私は非常に重要だと思います。スウェーデンでも一時期面会制限を行いましたが、それは過ちだったと思っています。高齢者介護施設での面会禁止にも正当な理由がなく、非常に多くの無駄な苦しみを生み出しました

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いまだ残る誤解を解く

スウェーデンがパンデミックに「無策」で対応し、感染拡大を放置したという誤解がいまだに存在することは驚きだ。日本の感染対策に関わった尾身氏すら、東洋経済社のインタビュー記事において「あえて自然感染を止めずに感染を放置し、医療による死亡抑制に力点を置くスウェーデンのような取り組み」と述べている。

これは誤解に基づく発言である。第一波の初めから「感染拡大を抑制し、医療のキャパシティを超えないようにする」「感染に最も脆弱である高齢者を守る」ことがスウェーデンの目指すところであることは、スウェーデン公衆衛生庁の記者会見で連日のように繰り返し説明されていた。

Getty Images
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スウェーデンはロックダウンこそしなかったものの、多くの規制が存在した。主眼が置かれたのは、ソーシャルディスタンスの徹底である。第2波以降では、店舗への入場も厳しく規制された。10平米につき1人しか入場が許されず、人数制限厳守のために各店舗前には警備が配置された。日本ではマスクやアクリル板のパーティションが好まれたが、スウェーデンではその代わりに密を避けることが勧められたのである。

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