欧州

2025.10.28 14:15

「マスク効果にエビデンスなかった」。元国家疫学者、『手記』でスウェーデンコロナ対策語る

スウェーデンの新型コロナ対策の指揮をとった元国家疫学者アンデシュ・テグネル氏

邦訳タイトルに込めた「複数の学問分野を組み合わせて問題解決」の意味

筆者にとって翻訳業務は初めての経験であり、スウェーデンの出版会社、スウェーデンのエージェント、日本のエージェントへのコンタクトから始まった翻訳の旅は、多くの困難を伴うものであった。特に、苦境下にある日本の出版業界の反応は鈍く、数多くの出版社に出版を断られた。最終的に今回の出版に漕ぎ着けることができたのは、多くの知己の方々の助けがあったからこそである。

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邦訳のタイトルに関しては、最後の最後まで悩んだ。スウェーデンのパンデミック対策を誤解していたり、好感を持っていなかったりする方が多いことを知っているだけに、挑発的なタイトルを付けることは憚られた。

何度も原文を読み返すうちに「tvärvetenskaplig」という言葉に目が留まった。スウェーデンのパンデミック対策では、対策によるメリットとデメリットを天秤にかけ、「感染」対策だけではなく大局的な考え方をする点が他の国とは一線を画している。

「tvärvetenskaplig」は英語では「interdisciplinary」、日本語では「学際的」と訳す。「学際的」とは複数の学問分野を組み合わせて研究や問題解決を行うアプローチのことであるが、日本語の「学際」という言葉は実は比較的新しい言葉で、1970年代に使われるようになった。そして、その言葉は統計学者、経済学者である筆者の父、宮川公男が初めて推奨したものである(その経緯は訳本中「あとがき」に詳しく記載)。

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「学際的」アプローチこそがスウェーデンのパンデミック対策の特色でもあり、テグネル氏の手記本の翻訳の後押しをしてくれた父が奇しくも推奨したその言葉をタイトルに選ぶことは、私にとって運命的に感じられた。

スウェーデンと日本の現状

日本ではインフルエンザ検査は日常的に行われる検査であるが、スウェーデンでは入院が必要である重症患者に限り大病院で検査を行う。新型コロナ感染症についても既に同様の扱いとなっている。入院を必要としない風邪症状で街の診療所を受診することのないスウェーデンでは、インフルエンザや新型コロナに感染していたとしても診断されることなく、人々は自宅療養で済ませる。

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日本ではいまだに、新型コロナウイルス感染を警戒する報道がなされているが、スウェーデンでは新型コロナウイルスに関する報道は皆無に等しい。病院でもマスクは不要で、入院患者との面会も自由である。

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