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2025.10.22 14:30

トランプ政権に屈するTikTok、「個人データ」を同意なしに当局と共有

Krot_Studio / Shutterstock.com

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米国の通信保存法(SCA)は、令状なしに開示できる利用者情報を原則制限し、政府機関や規制当局への開示前に企業がユーザーに通知することを前提にしている。一方で実務では、米国国土安全保障省(DHS)と配下の移民・関税執行局(ICE)が裁判官署名のない行政召喚状でプラットフォームに加入者情報を求めるという局面がある。その中でTikTokは法執行対応を改定した。共有先に規制当局を明記、通知は「開示前の原則」から「法律で義務づけられる場合のみ」へ後退し、文言も事後通知寄りに差し替えた形だ。

同時に、トランプ政権はTikTokへの影響力を強め、米事業売却の可否がトランプと習近平の承認に依存する状態にある。アプリの稼働自体も大統領令による禁令不執行により維持されている。この環境と通知方針の後退により、利用者が開示前に法廷で異議を唱える機会は実務上狭まる可能性がある。TikTokは変更理由やDHS/ICEへの提供有無に回答しておらず、運用の透明性は低い。ユーザーデータがユーザー本人にに知られないまま当局へ渡るリスクが高まっている。

TikTokが方針を改定、政府や規制当局とデータ共有しやすく

今年初め、TikTokは政府とのデータ共有の条件や方法に関する社内方針をひそかに改定した。アプリの米国内での継続運営をめぐりトランプ政権と交渉を行うなかで、同社はポリシーに「法執行機関だけでなく、必要に応じて規制当局ともデータを共有する」という文言を新たに加えた。また、「政府から個人データの提供要請を受けた際には、ユーザーにそれを通知する」という従来の保証を後退させた。

TikTokは現在、米国国土安全保障省(DHS)やその捜査機関である移民・関税執行局(ICE)に、ユーザーの個人情報を提供した、あるいは提供しているかどうかについて、フォーブスからの質問に一貫して回答を拒んでいる。ポリシー変更とこのような対応からは、同社が当局の求めに応じて情報を提供する可能性を否定できない状況がうかがえる。

連邦法の「通信保存法(Stored Communications Act:SCA)」は、テック企業が令状なしに開示できるユーザー情報の範囲を制限している。しかし、それにもかかわらずDHSとICEは、プラットフォーム企業に対してデータの提出を求め始めており、少なくとも1件では「ユーザー名、電話番号、IPアドレス、その他の識別情報」を要求していた。こうした要求は、裁判官ではなくDHSやICEの捜査官が署名する「行政召喚状」という形式で行われている。行政召喚状は司法命令ほどの法的拘束力を持たず、企業は裁判所からの命令が出ない限り、それを無視しても法的な罰則を受けることはない。また、通常こうした召喚状は、企業がユーザーに対して「データ提供の要請があったことを通知する」ことを妨げる効力も持たない。

これまで多くのテック大手は、ユーザーが自らの個人情報の開示要請に対して法廷で異議を申し立てる機会を持てるよう努めており、最近では、ICEの召喚状に異議を申し立てた人々が一定の成果を上げている。たとえばフェイスブックとインスタグラムは最近、ICE職員の身元や動きを追跡・報告する匿名アカウントの運営者に関する情報の提出を求める召喚状を受け取った。両アプリの親会社であるメタは該当するユーザーにそれを通知し、少なくとも1件では召喚状の写し(機密部分を黒塗りにしたもの)を共有した。その結果、両ユーザーはいずれも裁判所で召喚状を退けることに成功し、裁判官はメタに対し、裁判所の命令なしにデータを政府へ引き渡さないよう指示した(筆者は以前、フェイスブックとスポティファイでコンテンツポリシーを担当する仕事をしていた)。

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翻訳=上田裕資

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