2021年の東京五輪、そして記憶に新しい2025年の東京世界陸上と、大規模な世界大会の開催地となった「国立競技場」は、日本スポーツ界の「聖地」であることに間違いないだろう。その国立が2026年1月より「MUFGスタジアム」として生まれ変わる。プロジェクト「KOKURITSU NEXT」は、国立の歴史的レガシーを生かしながらスマートスタジアムとして進化させ、恒常的に赤字を生み出すコストセンターから、収益を生むプロフィットセンターへと姿を変える挑戦となる。
そもそも、現在の国立競技場の誕生は、いわくつきであった。新国立の建設計画は2012年に当初1300億円程度と見積もられていたが、故ザハ・ハディド氏によるデザイン案の建設費は、試算で最大約3462億円にまで膨れ上がるとされた。
これがメディア、そして国民からの強い批判を浴び2015年7月、当時の安倍晋三政権が計画を白紙撤回。これにより工期が遅れ、2019年に日本で開催されたラグビー・ワールドカップに新国立の完成が間に合わないという事態を招いた。白紙撤回の一週間前、東京・明治記念館で行われたラグビー日本代表壮行会で、W杯招致委員会会長を務めていた森喜朗氏は「新しいスタジアムでラグビー・ワールドカップが開催できます」と議員連を鼓舞しており急転直下、撤回時の胸中はいかに……と思わせた。
そもそも1300億円という予算自体、1997年に完成した日産スタジアムなどを基準としており、20年以上の時を経た後に建設されるスタジアムの予算基準として適切だったのかは疑問が残る。白紙撤回後、再公募で隈研吾氏デザイン・大成建設らの案が採用され、コストカットのため開閉式屋根などの機能が削減された結果、約1570億円で完成した。9月の世界陸上でも大雨により競技が中断する事態も見られたことから、ゲリラ豪雨対策などのために開閉式屋根を備えておくべきだったのではないかと思わせた。
ちなみに、2026年サッカーW杯の会場にもなっている、米ロサンゼルスの「SoFiスタジアム」(国立と同時期20年9月に開場)の建築費は55億ドル(現在のレートで約8500億円以上)にのぼる。これと比較すれば、国立がいかにコストを抑えたスタジアムかが理解できよう。それゆえに、実際に訪れた経験がある方ならご存知だろうが、現在の国立は良くも悪くも「箱」としての機能に徹している。コスト削減が優先されたためか、コンコースは簡素な造りで、天井を見上げれば配管が剥き出しの部分もある。ホスピタリティ・ラウンジも小規模で、飲食サービスがお世辞にも充実しているとは言い難い。その結果、運営母体である日本スポーツ振興センター(JSC)の発表によると、2022年度は13億円の赤字を計上。「聖地」はまさしくコストセンターと化していた。



