変革を迫られた「聖地」の宿命 ~ コストセンターからプロフィットセンターへ
そもそも、なぜ国立競技場は今、このような大きな変革を必要としたのか。かつてスタジアムは、スポーツイベントが開催される「特別な日」のための舞台だった。しかし、莫大な建設費と維持管理費を要するため、稼働率が低ければ瞬く間に巨大な「コストセンター」と化す。JSCが開示した決算からも、東京五輪開催以降、毎年10億円規模の赤字が明らかになっていた。「MUFGスタジアム」という呼称に異論を唱える方は、この事実を看過しているに過ぎなかろう。JSCの芦立訓理事長が、JNSEの取り組みに対し「コストセンターからプロフィットセンターへ転換を図る意欲的なスタジアム改革」と評した言葉に、その課題意識が凝縮されている。
JNSEの使命は、国立競技場を単なる競技施設から、恒常的に収益を生み出す「プロフィットセンター」へと転換させること。そのためには、サッカーや陸上競技といった興行収入だけに依存する旧来のビジネスモデルからの脱却は不可欠。世界のトップレベルのスタジアムは、今や365日稼働する多機能複合施設へと進化している。レストランや商業施設、ホテルなどを併設し、多様な人流と商流を生み出すことで収益源を多様化させているのだ。北海道日本ハム・ファイターズの本拠地エスコンフィールドは、すでにそれを具現化させている。国立競技場が「世界トップレベル」を目指す以上、この潮流を無視することはできない。物理的な制約がある中で、いかにして新たな価値と収益を生み出すか。そのためのトリガーとして選ばれたのが「ナショナルスタジアムパートナー」という新たな共創の仕組みである。
「共創」という名のパートナーシップ
ここで重要なのは、今回発表された枠組みが、単なる「ネーミングライツ」ではなく、「ナショナルスタジアムパートナー」と銘打たれている点。これは、名称使用権の対価としてスポンサー料を受け取るという一方的な関係性ではなく、両者が持つ知見やアセットを掛け合わせ、新たな事業価値を共に生み出す「共創」を前提としたパートナーシップであることを明確に示している。
その第一号パートナーがMUFGであったという事実は、この変革の本質を理解する上で極めて示唆に富んでいる。MUFGの亀澤宏規グループCEOは、その強みを「中立的な立場からあらゆるステークホルダーとの幅広い“つながり“を構築できること」と事前にコメント。ここに、JNSEが描く未来像との合致が見られる。JNSEの構成企業代表NTTドコモの前田義晃代表取締役社長が国立を「社会の心臓」と表現したように、パートナーとして目指すのは、スタジアムを起点に、スポーツ、音楽、文化、地域、企業といった多様な要素を結びつけ、新たな価値が循環するエコシステムのハブにすることだ。この中核を担う上で、産官学に及ぶ広範なネットワークを持つ総合金融グループは、理想的なパートナーだったと言える。
金融という、いわば経済の血液を循環させる役割を担う企業が、「社会の心臓」を目指すスタジアムと手を組む。MUFGはドコモが主導した名古屋IGアリーナのファウンディングパートナーでもあり、ラグビーNTTリーグワンのプリンシパルパートナーでもあり、すでに両者の親和性が十分に育まれていたことに気づかされる。亀澤CEOは「命名権だけではなく、一緒に新しい価値を作り出す、それは社会課題の解決につながると思っています」と発表会でも明言している。


