サイエンス

2025.10.22 18:00

日本の温泉には「生命誕生の秘密」が隠されている──鉄をエネルギー源とする微生物が示す可能性

調査対象の温泉で沈殿した鉄酸化物(Credit: Fatima Li-Hau)

日本国内5カ所の温泉を分析したところ、うち4カ所で「微好気性の鉄酸化細菌」が多く存在する微生物群集が確認できた。簡単に説明すると、低酸素環境下で水中の二価鉄を主要エネルギー源とする微生物が繁栄し、二価鉄を三価鉄へと酸化していたのだ。

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これは、数十億年前に初期微生物がどのようにエネルギーを獲得していたかを示唆する新たな知見である。

酸素を生み出すシアノバクテリアも存在したが、その数ははるかに少なかった。メタゲノム解析により、研究チームは200を超える高品質な微生物ゲノムの再構築にも成功し、温泉の生態系の代謝を驚くべき詳細さで解明できた。

浮かび上がってきたのは、絶妙なバランスで成り立っている生態系だ。そこでは異なる微生物種が共存し、互いに協力しながら、酸素が乏しく常に化学反応が繰り返される環境下で安定性を維持している。たとえば鉄酸化細菌は、鉄と酸素の代謝を連動させることで有害化合物を無害化し、酸素に敏感な嫌気性微生物が生き延びられる環境を温泉の中につくり上げていた。

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これらの微生物は本質的に、自らのマイクロハビタット(特定の生物が利用する特殊かつ小規模な生息環境)を設計していたのだ。こうして生み出された局所環境では、従来なら共存不可能と考えられていた複数の生命体が共存していた。

これらの発見は何を意味するか

現代の温泉に息づく微生物群集が、私たちの知る中でも有数の最も酸素が限られた過酷な環境下で自己維持可能な相互依存に基づく生態系を創出できるならば、それは初期の地球の生物圏がこれまで考えられていたよりもずっと多様で活力に満ちていた可能性を示唆する。

かつての地球は、従来説にみるような、わずか数種類の原始的な細菌が生存競争を繰り広げる星だったのではなく、はるかに代謝的に柔軟な生物たちを宿していたのかもしれない。そして、この発見の影響は地球以外にも及ぶ。

火星や木星の第2衛星エウロパ、遠い恒星を回る系外惑星など、地球以外の天体において生命探査を行う際に、現在われわれが最初に探す「バイオシグネチャー(生命存在指標)」の1つが酸素である。しかし、本研究が示すように、生命は必ずしも酸素を必要としない。むしろ酸素がまったく存在しない環境でこそ最も繁栄する可能性すらある。

鉄分豊富な海、火山活動、そして酸素がほとんど存在しない世界は、かつて「生命が存在しえない環境」だと考えられていた。だが、実際にはそうした場所に微生物が溢れているかもしれないのだ。

forbes.com原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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