経済・社会

2025.10.21 16:45

「強い経済」の再起動へ――高市経済の試金石

Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

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自民党の高市早苗総裁は21日、衆参両院の首相指名選挙で第104代首相に選出され、憲政史上初めて、女性首相が誕生した。

高市首相のもとで経済はどのように変わるのか。また、課題はどんなところにあるのか。
第一生命経済研究所の首席エコノミスト 永濱利廣さんに聞いた。


高市首相は、公約の一丁目一番地に「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』による、暮らしの安全・安心の確保と『強い経済』の実現」を掲げている。この経済ビジョンは「イシバノミクス」とは一線を画すもので、すなわち、従来の緊縮志向を緩め、野党の政策要素も取り込みながら、財政規律よりも経済成長を優先する方向性が明確になるだろう。

成長率が金利を上回る局面で「攻めの財政」を

高市氏の経済運営のカギを握るのは、名目経済成長率が長期金利を上回る局面において、どこまで大胆な投資を実現できるかだ。 その際には、財政再建よりも成長への投資を優先する柔軟な判断が不可欠となる。公約通りに政策が進めば、日本経済の最大の課題である供給力の強化が進む可能性がある。特に2025年度補正予算では、雇用と所得を増やし、消費マインドを改善させ、税収の自然増につながる「強い経済」を実現できるかが焦点になる。

「良いインフレ」定着のために

物価上昇と賃上げを伴う「良いインフレ」を定着させるには、労働時間規制の見直しが有効だ。 とりわけ、労働時間のマイナス寄与を縮小する観点から、行き過ぎた時間規制を緩和し、従業員の健康と選択を前提とした柔軟な働き方を可能にすることが重要だ。

教育改革とエネルギー供給の再構築

また、高市氏が掲げる「未来成長分野に挑戦する人材の育成」には、大学改革や高専・専門高校での職業教育の充実が欠かせない。

さらに、交易条件の改善には、原発を含む電力供給力の向上に向けた取り組みも避けて通れない。エネルギーコストの抑制こそが、製造業の国際競争力を支える基盤となるからだ。

労働市場の流動性を高める政策へ

中途採用を積極的に行う企業や、転職者にインセンティブを与えるなど、労働市場の流動性を高める政策が求められる。

また、官民を問わず、都合の良い時間に働ける正社員枠の拡充も、労働参加率を高める鍵となる。

「バブル後の呪縛」を解くとき

 バブル崩壊後の政府の政策失敗によって歪められた価値観を、政策総動員によって解凍できれば、実質賃金の安定的なプラス推移を通じて、消費マインドが改善し、税収が自然増に向かう“強い経済”の実現は十分に可能だ。いま問われているのは、成長と規律のバランスをいかに現実的にとるかである。 高市政権の船出は、日本経済にとって「政策転換」の試金石となるだろう。

編集=谷本有香

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