「真っ先に動く者」が勝利を収める理由
真っ先に動いた者は、以下のような複合的なアドバンテージを得られる。
1. ストーリーを定義する
2022年末にOpenAIがChatGPTをリリースした時、同社が世に送り出したのは、単なる1つの製品ではなかった。OpenAIは、生成AIに対する人々のイメージを定義したのだ。Anthropic(アンソロピック)からグーグルまで、複数の競合企業が躍起になってあとを追いかけたが、OpenAIはすでに、文化とビジネス面における圧倒的優位を確保していた。真っ先に動くとは、他のライバルに先んじて、その分野におけるストーリーを語ることを意味する。
2. 顧客の行動を形成する
テスラが電気自動車(EV)を、市場周縁にある実験的な製品から、主力の座をうかがう可能性を秘めた存在に塗り替えた過程について考えてみよう。テスラは真っ先に動き、EVに深くコミットしたことで、顧客がEVに期待するものを再定義した。それはすなわち、航続距離の長いバッテリー、ソフトウェアの無線(OTA:Over The Air)アップデート、洗練されたデザインだ。今ではライバル企業も、テスラが設定した条件のもとで競争することを余儀なくされている。
3. エコシステムを確立する
アップルは、真っ先に「App Store」を立ち上げたことでアドバンテージを獲得し、永続性のある開発者エコシステムを確立した。開発者がひとたびアップルのプラットフォームに時間やリソースを投入すると、イノベーションのサイクルがこの中に閉じ込められ、アップルは競争的な強みを長期間維持することが可能になった。
4. 「乗り換えコスト」を生み出す
Salesforce(セールスフォース)などの企業向けソフトウェアのメーカーは、かねてから「真っ先に動く」戦略を採用することでメリットを得ている。初期にこうした製品を導入した顧客は、ソフトを企業の業務に深く統合し、従業員の研修を行ない、こうしたソフトを中核に据えてビジネスプロセスを構築する。この場合、あとになって乗り換えようとしてもそれにかかるコストが法外に高くなるため、真っ先に動いたメーカーの地位は維持される、というわけだ。
5. ライバルの攻勢に備える「堀」を構築する
乗り換えコストに加えて、真っ先に動いた者は、模倣を困難にする構造的な障壁を設けることができる。例えばアマゾンの場合、初期に物流やフルフィルメントセンターに投資を行なったことで、インフラにおけるアドバンテージを獲得した。ライバル企業はいまだに、アマゾンの圧倒的な規模に追いつけていない。
同様に、NVIDIA(エヌビディア)は長年にわたってさまざまな用途に特化したGPUを開発し、CUDA(Compute Unified Device Architecture)と呼ばれるプラットフォームを中核とする開発者のエコシステムを醸成してきた。これによって、ライバルを寄せ付けない、技術と人材の両面にわたる「堀」が形成されている。こうした堀があることで、たとえ競合する企業が現れても、真っ先に動いた企業が得た立場と比較すると、奥行きや規模、既存顧客の定着性において、並び立つことは難しくなる。


