原作小説『ハリー・ポッター』を読むべきか?
『ハリー・ポッター』シリーズは大々的に再評価が行われており、多くのオンラインコンテンツ制作者が、批判すべき点を多々指摘している。
とはいえ、『ハリー・ポッター』シリーズがこれほどまで人気なのには訳がある。第1巻から第3巻は、魔法学校に通う仲良し3人組が楽しい学校生活を送りながらトラブルに巻き込まれていく様子が描かれており、魔法と冒険が満載でとてもわくわくする。
『ハリー・ポッター』原作の魅力
改めて読み返してみると、このシリーズがいかに「パワーファンタジー」(圧倒的な力を手に入れた主人公に感情移入して、現実ではありえないパワーや世界を体験できる物語ジャンル)の色合いが濃いかという点に目が行く。
物語は、孤児のハリーが郊外の住宅地で、同居する叔父と叔母、いとこからひどい扱いを受け、つらい生活を送っているところから始まる。実質的に捕らわれの身だったハリーのもとにある日、魔法界からの使いハグリッドが現れ、ハリーに「君は特別なんだ」と告げる。子どもなら誰でも言われてみたいセリフだ。
そうしてハリーは、自分が魔法使いであることと、魔法使いの同級生が学ぶ魔法学校に入学することを知る。
さらにハリーは、魔法使いであるだけでなく、魔法界の有名人でもあった。赤ちゃんのときに、魔法界史上最も危険かつ忌み嫌われる闇の魔法使いを倒し、今では魔法界でとても愛される存在なのだと告げられるのだ。
おまけに、愛される有名人であるばかりか、信じられないほどお金持ちだった。亡くなった魔法使いの両親が、大量のガリオン金貨(ガリオンは魔法界の通貨)を遺産として残してくれたことを、ハグリッドから聞かされる。
ハリーはホグワーツ魔法魔術学校に入学し、グリフィンドールという寮に組分けされる(もちろん、4つある寮のなかでベストだ)。そしてほどなくすると、クィディッチ選手として生まれつきの才能を持っていることがわかる。クィディッチは面白くて風変わりな魔法界のスポーツで、選手は魔法の箒(ほうき)にまたがって空を飛びながらプレイする。
ハリーは、魔法界で最高級といわれる箒を手に入れて活躍したり、受け継いだ透明マントを友だちと一緒にかぶって、誰にも見られず校内の廊下を忍び歩いたりする。
こうした物語の設定が、子どもや若者にとって非常に魅力的であるのは言うまでもない。
『ハリー・ポッター』シリーズは基本的にファンタジー小説で、楽しい学校生活や、愉快で興味深い授業の様子が描かれる。その一方で、いじめっ子や意地悪な先生を登場させることで、現実味も味わえるようになっている。
同シリーズが最も本領を発揮するのは、ハリーが周囲に溶け込めない感覚を抱きつつも、親友のロンやハーマイオニーと友情を育んでいく部分だ。ロンやハーマイオニーも魔法界ではよそ者扱いされていて、ハリーも有名人でありながら、やはりよそ者だ。
シリーズ最初の3巻は、力強くシンプルな筋立てが魅力で、3人は先生ですら手こずる魔法の難問をいくつも解き明かしていく。魔法界のおかしなルールが、成り行きで決められている感じもしなくはないが、いずれにせよ実に愉快だ。
第3巻までは驚異と奇抜さに満ちているが、第4巻に入るとテンポが少し落ちる。
『ハリー・ポッター』シリーズが驚異的な成功を収めたことで、著者ローリングがより自由に書き進められるようになったのは明らかだ。しかしシリーズ後半は、1巻1巻が厚みを増しており、膨れ上がった物語を熟練編集者の手でうまく削ぎ落とす必要がありそうだ。
そうは言っても第4巻は、プロットに若干の難はあるものの、謎解きの楽しさがある。しかし第5巻以降は、ストーリーがどんどん暗さを増し、読み進めるのがしんどくなっていく。
『ハリー・ポッター』シリーズは、読者の年齢が上がるとともに物語も成熟していくようになっていて、後半の巻では、思春期の不器用な恋愛、死、奴隷制度、偏見、魔法界でのファシズムといったテーマが掘り下げられている。
前半3巻で描かれた世界は、こうした重いテーマを扱うようなつくりにはなっていない、と言っていいだろう。そのためか、物語の矛盾がどんどん重なっていき、疑問の残る判断もいくつか見え始める。


