昨年リリースしたApple M4チップから、CPUにもニューラル・アクセラレータが組み込まれている。AIとひと口に言っても、その処理内容は多様性に富む。例えばディープラーニングに基づく推論処理は行列演算を得意とする16コアのNeural Engineの領分だ。高負荷で膨大な規模の推論処理を得意とするGPU、AIモデルの制御やタスクの分配などの処理に長けたCPUが連携しながら、タスクの性質に応じて柔軟に協調動作をする。AI処理をバランスよくこなせるアーキテクチャに整えて、パフォーマンスの向上とともに消費電力などの効率を高めることにアップルのM5チップはまた一歩踏み込んだ。
AppleシリコンはCPU、GPU、Neural Engineなどの各演算ブロックが、SoC上に統合された物理メモリ領域であるユニファイドメモリを共有することで、処理の遅延を抑えたり電力効率を高める。このように協調動作に適したアーキテクチャを採用する。
M5チップでは演算ブロックとユニファイドメモリをつなぐデータ伝送経路を、M4チップよりも約30パーセントほど広げた。1秒間にやりとりできるデータ量が拡大することで、AI系のタスクに限らずさまざまな処理が高速化・安定化する。
アップルは独自のAIプラットフォームであるApple Intelligenceを立ち上げて以降、さまざまなAIモデルを組み込みながら、自社のデバイスやサービスによって“できること”を増やしている。9月に発表したワイヤレスイヤホンのAirPods ProシリーズとiPhoneの組み合わせにより実現する「ライブ翻訳」も、Apple Intelligenceの新しい可能性を示した楽しみな機能だ。
Appleシリコンは、最先端のAIテクノロジーやユーザーが期待するAI体験を柔軟に取り込めるよう、世代を重ねるごとに成長を続けている。最新のM5チップではまた一段上のステージへと到達した。
筆者はいま、M3チップを搭載したMacBook Proと、M4チップを搭載したiPad Proを使っている。最近のAppleシリコンを搭載したデバイスを使っているユーザーは、今回アップルが発売する新製品にすぐさま乗り換える必要はないと筆者は考える。しかし、これから本格的に始まるApple IntelligenceやAIコンピューティングの進化の最前線で、最も快適な体験を得られる最新モデルを、いま手にできる人たちを少しうらやましくも思う。


