それでも、麟太郎は言うのだ。
「今でも勉強に追われていますよ。野球と学業のバランスを保っていかなければいけないので、今でも苦労している部分はあります」
大学2年目に向けてアメリカへ戻ってから約1カ月後、10月中頃の麟太郎は慌ただしくも、やはり充実の日々を送る。ある日のタイムスケジュールを教えてもらったのだが、何ともタイトだ。
朝9時からのウエイトトレーニングに合わせて起床。野球部数人のグループで行う1時間程度のトレーニングの後は、昼の12時半からオンライン授業を1時間。その後も通常授業を1時間こなして、昼食を挟んで15時頃から野球部のチーム練習。3時間ほどやって、19時半頃までは自主練習だ。夕飯を食べた後は勉強机に向かって宿題をこなす。
「1日のルーティンとしてはそういう感じです。寝るのは、頑張っても23時ぐらいですかね」
麟太郎はそう言って、また表情を崩すのだ。
アメリカでの日々に慣れてきたであろう今だからこそ、彼に訊きたいことがあった。スタンフォード大学で得たものは何か、と。名門大学で学び、その空気に触れている麟太郎の思考や価値観に、何か変化はあったのだろうか。
「今はレベルの高い環境で過ごさせてもらっていると感じています。周りを見れば、オリンピアンがいたり、私と同年代ですでに起業している人がいたり、自分よりも、はるか上の知識を持っている人がたくさんいる。人間として、そしてアスリートとしてもレベルの高い人は多い。そんな環境に身を置き、自身の意識などは周りに引き上げられていると実感しています。多種多様な人たちと出会い、間違いなく刺激になる部分はあります」
アスリートでもある麟太郎は、野球選手として得るものも多い。1年目のシーズン、16チームが所属するアトランティック・コースト・カンファレンス(ACC)でスタンフォード大学は13位だったが、彼は全試合に出場。52試合で打率2割6分9厘、7本塁打、41打点でシーズンを終えた。麟太郎が昨シーズンを思い起こす。
「高校からアメリカの大学に来て、野球のレベルが格段に上がるなかで昨シーズンは全試合で起用していただいてプレーしました。自分としては課題だらけ。失敗の繰り返しでした。納得のいく結果を残す時期もありながら、野球で得たものと言えば、経験値。そこが一番かなあと。52試合に出た経験値。そこでの失敗と成功体験が財産です。それをどう活用していくかが、次のシーズンのテーマだと思っています」
来年2026年の2月からACCでのシーズンが始まる”2年目の挑戦“。麟太郎は「決まっていることは、次のシーズンもスタンフォード大学でプレーすること」だと現在地を語る。新年度がスタートして新入生10名、そして他大学から編入してきた数名も加えたスタンフォード大学の野球部で、麟太郎はアスリートとしての高みを見つめている。


