経営・戦略

2025.10.24 12:10

「ESGフィット度ランキング」ベスト20、「量より質」への転換が進む

2025年10月24日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。

サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業はどこか。生成AIを使って統合報告書を分析し、導き出された「ESGフィット度ランキング」を発表!


2027年3月期から「本格開示」へ──。金融庁は25年7月、時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業には27年3月期から、同1兆円以上3兆円未満の企業には28年3月期からサステナビリティ情報の開示を義務付けると発表した。情報開示義務に伴い、企業への負担は増えることが予想される。

一方、ESGを「稼ぐ力」の向上につなげている企業にとって、情報開示の義務化は自社の中長期的な成長性をアピールするチャンスになりうる。実際、すでに統合報告書などで事業の社会的インパクトをアピールしている企業は存在する。

では、数値目標や達成度の報告にとどまらず、ESG関連の取り組みと稼ぐ力を連動できている「お手本企業」はどこか。この疑問を解き明かそうと、Forbes JAPANでは今回新たに「ESGフィット度ランキング」を作成した。上場企業の統合報告書からESGに関する取り組みを抽出し、生成AIを活用して本業との親和性をそれぞれ3点満点で評価。取り組みの数と質を合計し、スコアを算出した。

ランキング結果を見ると、専門性が高く、イノベーションを積極的に推進している企業が上位に名を連ねた。ESGを、本業の可能性を広げる場として生かす。早い段階でこの発想をもてるかどうかが、企業の稼ぐ力の行方を左右しそうだ。

ランキング算出方法
調査対象は2025年3月末時点の時価総額上位350社のうち、25年7月上旬までに統合報告書を発行済みの上場企業。サステナブル・ラボが生成AIを用いて統合報告書からESGに関する取り組み情報を抽出・構造化し、その内容と企業の本業との関連性をAIで評価・判定した。取り組み内容が当該企業の根幹技術やコア製品・サービスの競争力に直接的かつ決定的な影響を与えるものやビジネスモデルを構成する戦略である場合に3点、本業のバリューチェーン全体を強化・効率化するものや事業継続に不可欠な基盤(人材、ガバナンス、コンプライアンス、サプライチェーン管理など)を構築するものである場合に2点、関連性が低い場合に1点を付与し、合計点を算出した。

1|島津製作所

ESGフィット度 総合スコア:72.67 ESGのうち特に秀でた分野:S(社会)

1875年創業の大手精密機器メーカー。主力の分析・計測機器をはじめ、X線診断装置などの医療用機器や産業用機器などを手がける。液体試料の成分を調べる液体クロマトグラフは世界トップクラスのシェアを誇る。2025年3月期の連結決算売上高は5,390億円(前年比5.3%増)。営業利益は717億円(同1.4%減)、純利益は537億円(同5.7%減)。

評価ポイント|「科学技術で社会に貢献する」という社是のもと、研究開発と人材育成の統合的視点を重視している。社員の博士号取得を支援する制度を導入することで、高度専門人材の育成にも力を入れる。特許の出願・取得による知的資本の獲得を通じて顧客の課題や社会課題の解決に寄与し、企業価値を向上。人材と知財の両輪で、本業と社会的価値の接点を追求している。

2|KDDI

ESGフィット度 総合スコア:68.67 ESGのうち特に秀でた分野:S(社会)

2000年創業の大手通信事業者。「au」ブランドを中心とした携帯電話サービスや固定電話サービスなどを提供するほか、DX支援や金融、IoTプラットフォーム、データセンターサービスなどを展開。25年3月期の連結決算売上高は5兆9,179億円(前年比2.8%増)。営業利益は1兆1,186億円(同16.3%増)、純利益は6,856億円(同7.5%増)。

評価ポイント|高齢者向けのデジタル格差解消講座や子ども向けスマホ・ケータイ安全教室などを通じてICT関連トラブルの防止に貢献している。自転車の「ながらスマホ」事故撲滅に向けたオンライン・VR授業キットを制作し、学校に無償提供する取り組みも。ICTを活用した防災支援など、通信事業者の使命を軸にすえた社会貢献活動を多面的に展開している点が高く評価された。

3|明治ホールディングス

ESGフィット度 総合スコア:64.00 ESGのうち特に秀でた分野:S(社会)

明治製菓と明治乳業の経営統合により、2009年にホールディングス化。食と薬にまつわるさまざまなイノベーションを通じて、社会が抱える栄養や健康に関する課題解決に取り組む。25年3月期の連結決算売上高は1兆1,540億円(前年比4.4%増)。営業利益は847億円(同0.5%増)、純利益は508億円(同0.2%増)。

評価ポイント|利益の向上とESG指標の改善を両立させる独自の「明治ROESG(R)」を経営目標に掲げ、ROEとESG達成度を事業評価に組み込む。健康志向・付加価値型栄養食品、持続可能な調達に資する食品、ワクチンや安定確保医薬品を対象に目標を設定し、年度売上高計画の達成をKPI化。社会課題の解決を通じて企業の持続的な成長を目指す戦略が高評価につながった。

4|横浜フィナンシャルグループ

ESGフィット度 総合スコア:63.00 ESGのうち特に秀でた分野:S(社会)

横浜銀行と東日本銀行の経営統合で2016年に誕生した地方金融グループ。預金残高、貸出残高ともに地銀のなかでトップクラスに位置する。25年3月期の連結決算売上高は3,991億円(前年比11.3%増)。経常利益は1,227億円(同59.4%増)、純利益は828億円(同23.7%増)。

評価ポイント|地域経済と地元企業の持続的成長に資するESG戦略を推進。地域資源を活用した観光の活性化など、地域の課題解決に直結する取り組みで地域のハブ的機能を発揮。サステナブルファイナンスなどを通じた独自の手法で社会課題の解決に取り組む。

5|鹿島建設

ESGフィット度 総合スコア:61.67 ESGのうち特に秀でた分野:S(社会)

国内外の不動産開発で多くの実績をもつ大手総合建設会社。大手建設業ならではの安全対策や災害対応を推進している。2025年3月期の連結決算売上高は2兆9,118億円(前年比9.3%増)。営業利益は1,518億円(同11.5%増)、純利益は1,258億円(同9.4%増)。

評価ポイント|地震や豪雨災害発生時には、道路や橋 梁の復旧活動を早期に実施。地震被害の推定や、SNS情報と自社施工物件の位置情報を地理情報システム上で一元管理する「BCP-ComPAS」を開発・運用し、能登半島地震でもリアルタイムで被災状況を把握。

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解析・評価=サステナブル・ラボ(ジャッキー・ヤン)イラストレーション=ジャック・ハドソン

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