2023年のカルチャープレナー特集で表紙を飾った岩本涼と、昨年の受賞者である石上賢。ふたりがこれから目指すのは、世界で日本文化の付加価値を上げる新たな挑戦だ。
茶の湯の精神性を軸にお茶事業を拡大させるTeaRoom代表の岩本涼と、工芸をアート作品として展開し、日本文化全体の価値の底上げを目指す石上賢。カルチャープレナーとして快進撃を続けるふたりがこの秋、合弁会社を立ち上げる。
──新会社ではどのような事業を?
石上賢(以下、石上):サロンをつくろうとしています。今、美の価値基準は海の向こう側にあります。例えば日本でもヨーロッパのハイブランドとコラボすると価値があるように見えるわけです。こうした美の隷属化が起きているのは、西洋でルネサンスが起きて美の覇権を取ったことが大きい。そこから抜け出すには日本や東洋からルネサンスを興すべきです。
ルネサンスには「哲学」「テクノロジー」「コミュニティ」「資本」の4つが必要で、サロンはこのうちコミュニティと資本を担うもの。14世紀のルネサンスは、コンスタンティノープルが陥落してギリシャや中東の知識階級がイタリアに逃げ、彼らをメディチ家のような大資本が支えたことで生まれました。つまり文化側と産業側がつながる場としてサロンがあった。新会社でそこに挑戦しようとしています。
岩本涼(以下、岩本):戦後の日本社会で産業界がまず注力したのは、プロダクトを効率的につくり、流通を整えること。結果、高度経済成長を成し遂げましたが、その過程でプロダクトの機能的な価値と裏側にある情緒的・文化的な価値が分離されてしまった。ならば目には見えにくい「文化」が持つ深層の価値を、社会に実装できないだろうかと思いました。
石上:僕は日本の伝統文化、特に工芸の価値が低すぎることに危機感を抱いていました。それまで僕は工芸作品を、ホワイトキューブの上に展示する「純粋芸術」のやり方で売っていましたが、正直、価値がうまく伝わらないもどかしさがありました。しかし岩本さんにお茶会をやってもらったら、文化の背景や文脈を来場者に一発で理解してもらえた。これは衝撃的でしたね。
岩本:茶器や花器は単独で存在するだけでは、ただのプロダクトに過ぎません。しかし、千利休は空間構造や行動様式をつくり、プロダクトを思想のなかに位置づけることで価値を高めていきました。これが茶の湯が総合芸術と呼ばれる由縁です。
文化の議論は「潜在顧客向けに、どう敷居を下げるか」という迎合的な論調になりがちです。しかし、むしろ敷居が高くとも触れたいと思う顧客を増やさなければ、付加価値は生み出せません。
そのことを実感したのが、2024年の米国最大のアートフェア「アートバーゼル・マイアミビーチ」でのアート茶会です。初日は来場者に迎合する気持ちがあったせいか、「Tea service」と言われてしまいました。翌日からは堂々と、何も喋らずに正座して接する「Tea ceremony」として実施。すると、参加者が茶碗を大事に両手で持ちはじめ、向こうから所作や道具の意味に関する質問が飛んできました。何に祈りを捧げているのか。なぜ抹茶なのか。背景にある思想を伝えた結果、工芸品も数千万円単位で売れました。



