もしかすると、コンフォートゾーンを抜け出すというイメージが、内面的で主体的なことに問題があるのかもしれません。何かの「快適」を諦めるのは一人ではできません。意見や価値観の違う人との出会い、「別の人のコンフォートゾーン」との出会いによって初めて、自分の「快適」がどのように成り立っているのかを知ることができます。その交流や対話を抜きにして、他の人の「快適」を受け入れたり、「共存できる快適のかたち」を探すことは不可能です。
北欧・国際比較文化ジャーナリストでノルウェー国際報道協会会員の鐙麻樹さんは、記事『「論破」より「耳を傾ける」時代へ 北欧式「対話の8原則」とは』の中で、オスロにあるノーベル平和センターが平和賞受賞者の理念をもとに提示する「良い対話のための8つの原則」を紹介しています。
1. 対話を大切にする
2. 安全な場をつくる
3. すべての関係者を包摂する
4. 対話においては、耳を傾けよう
5. すべての人が経験を共有できるようにする
6. 問いを投げかける
7. 難しい問題と向き合う
8. 赦しと和解のためにできることをする
鐙さんは続けます。
「一方的に言い負かす「論破」とは異なり(そもそも「論破」というノルウェー語はない)、対話とは「誰かを負かす」ことではない。ノーベル平和センターの冊子『対話が世界を変える』にも、「対話において勝ちはありません。負ける人がいないことも大切です」と記されている。(中略)「どう耳を傾けるか」「どう安全な場をつくるか」といったプロセスこそが、民主的な社会を支える根幹ではないだろうか」
安心して行動できる基盤があってこそ、新しいものを試してみようと思えるし、コントロールを他者に委ねてみようと思えるようになる。外からのインスピレーションを「身体に吹き込まれる」準備が整うのではないでしょうか。
コンフォートゾーンを何かの対価や評価基準にするのではなく、対話や交流の対象に置くこと。そして、その違いによって生まれる面白さに身を委ねられるように、お互いの安心や尊敬を確保すること。それが、新しいラグジュアリーのコンフォートのありかたかなと思っています。


