国際エネルギー機関(IEA)は、データセンターの電力需要が2030年までに倍増し、約945テラワット時に達すると予測している。これは現在の日本の電力消費量をやや上回るほどの規模だ。暗号資産を含めた需要は、26年までに1000テラワット時を超える可能性がある。アナリストらは、早ければ27年までに、AIに重点を置いた世界のデータセンターの4割が電力不足に陥る可能性があると警告している。自動車や電車に搭載されるコンピューター制御のカメラ、自律型ロボット、医療の電子管理、都市全体の分析、ブロックチェーン、暗号資産、AIが漫画だけでなく実写的なテレビ番組を大量生産する創造産業、半導体の力で国内総生産(GDP)を押し上げるイノベーションハブといった技術を支えるには、地域の発電量の大幅な増加が不可欠だ。
皮肉なことに、エネルギー資源が豊富なロシアは現在、電力不足に陥っているようだ。モスクワも比較的近い将来、電力不足に直面する可能性がある。状況を緩和するため、首都圏に出力950メガワット相当の火力発電所を建設することや、2030年までに750キロボルトの送電線2本を市内に引き込むこと、さらに32年までにロシア西部ノボボロネジ原子力発電所から1.5ギガワットの高圧線を設置することなどが計画されている。だが、これらの計画の実現には4607億ルーブル(約8600億円)という費用がかかる上、実現したとしても信頼性があるとは限らない。デジタル需要の伸び率を考慮すると、こうした追加措置は不十分かつ遅過ぎる可能性がある。さらに、ウクライナ軍の無人機(ドローン)は既にロシアの電力系統に甚大な被害をもたらしており、同国の設備は攻撃に対してあまりにも脆弱(ぜいじゃく)だ。
国家規模で計画されている大規模な社会基盤整備でさえ、決定的な解決策にはならない。発電増強計画により、ロシアの総発電量は42年までに88.1ギガワット増加する。だが、クラウドサービスやデータセンターはロシアの広大な国土に分散しているわけではなく、都市部に集中している。同国の商用データセンターの約4分の3は首都圏に設置されている。全国規模で発電量を増やしても、需要が急増している都市部から数百キロ離れた場所で発電される限り、都市部の負担軽減にはつながらない。
もう1つの大きな疑問は、ロシア政府が公表した発電容量の増加を実際に達成できるかどうかだ。中央銀行の政策金利が17%で経済の減速が予測される中、利益率の低い発電事業に民間資本を呼び込むのは難しい。同国では国防費がGDPの約6.3%にまで膨らんでおり、GDP比1.7%としていた25年の財政赤字上限は実質的に年半ばまでに突破したため、国の財政も逼迫(ひっぱく)している。
ロシアはまた、電力を輸出から国内消費へ移すこともできない。中国向け電力輸出は24年の水準から70%超減少しており、事実上崩壊状態にある。電力事業者は現在、新たな発電所と送電線が建設されるまでの間、国内東部の電力供給を維持するため、中国からの電力輸入を検討しているほどだ。
モスクワの都市開発課題に対する「輝かしい」未来志向の解決策は、遠く離れた場所の力を借りることに依存しており、建設がまったく行われないか、期限内に完成しない可能性もある。データセンターの負荷が電力不足や停電を引き起こし得る世界で、モスクワのクラウドシティー構想はあまりにも大胆だ。単に同市の脆弱性が露呈するだけかもしれない。


