欧州

2025.10.21 12:00

ロシアの電力不足が首都モスクワにも迫りくる 解決策も空回りの可能性

上空から撮影したロシア首都モスクワの夕景(Getty Images)

上空から撮影したロシア首都モスクワの夕景(Getty Images)

人工知能(AI)を巡る米中の覇権争いが激化する中、中国が他国を大きく引き離している分野の1つが「クラウドシティー」あるいは「スマートシティー」の出現だ。これはAIとロボット技術を統合し、効率的な運営を実現する巨大都市構想で、環境への悪影響を軽減し、市民生活の質を向上させる役割を果たしている。一方、市民の視点から見ると、プライバシー保護や監視への懸念が負の面として挙げられ、米国や欧州連合(EU)など個人の自由を重視する価値観を持つ国々では十分な準備が求められる。

技術的な観点では、都市におけるAIの統合には膨大な量の電力が必要となる。スマートシティー構想の初期段階の取り組みの一環として、中国は増加する電力需要に対応するため、大規模な社会基盤整備を開始した。中国政府は上意下達型の集中管理手法により、原子力、石炭、天然ガス、再生可能エネルギーによる発電に多額の投資を行い、革新的な送電網技術で補完することで、特に大都市近郊における効率的な発電と配電を強化した。

北京やワシントン以外の首都もクラウドシティーに興味を持ち、参加する方法を模索している。その1つがロシアの首都モスクワだ。同市は先月、新興国グループ「BRICS」の都市未来フォーラムを開催。中国からサウジアラビアに至る各国の代表団が、大都市向けロボット工学、ビッグデータ、AIに関する知識を交換した。

これはSF映画の世界をほうふつとさせる。ロボットが荷物を配達し、自動清掃機が公園を掃除する。3次元「デジタルツイン」モデルは、約2600平方キロに及ぶ道路網と公共施設を管理し、通行止めや改修工事などを把握して迂回(うかい)策を提示し、地域の交通渋滞を最小限に抑える。市内全域に張り巡らされたカメラは、交通状況や人の移動に関するリアルタイムデータをAIに送信している。モスクワでは、50万人の乗客が「切符」を買わずに地下鉄を利用している。顔認証システムが自動的に運賃を課金するからだ(大量監視の暗い側面に関心のある読者のために申し添えておくと、乗客の位置情報データも収集されている)。これは未来小説ではない。モスクワがBRICS諸国に向けて都市開発のモデルとして自らを提示しているのだ。

地政学上のメッセージは明確だ。「ピクセル」と呼ばれるロボットが街路を清掃しているのを見れば、モスクワがかつて「兄弟」だった隣国のウクライナと戦争をしている帝国の首都ではなく、ロボット工学やAIを活用した都市変革に関する構想を練る場となる、未来の「輝かしい」大都市として捉えるべきだということだ。だが、「輝き」を実現するには膨大な電力が必要であり、これは達成不可能な野望となるかもしれない。

次ページ > エネルギー資源の豊富なロシアが電力不足に陥る皮肉

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事