5. 相手に合わせた丁寧な表現を、AIでどう作るか
英語のメールや、プレゼンなど、相手への配慮が必要な英語表現をしたいときにAIを使う場合、どのような指示を出すといいだろうか。
まず、英語と日本語のメールの表現方法が違うことを理解するのが鉄則である。背景説明から入りがちな日本人のメールに対して、英語のビジネスメールは、結論や相手に依頼するアクションが最初に来る。そこで、英語型の構造を意識した日本語の下書きを作成し、AIに英語に翻訳を指示すると効果的である。
この、日本語下書きから英語への自動翻訳の指示といっしょに、丁寧さを指定するのがお勧めである。つまり、「メール翻訳をAIに指示するときは、相手を具体的に示し、必要な丁寧さを明示的に書く」を基本ルールにする。
たとえば、こんな指示を付け加えるわけだ。
• メールの相手:社外の取引先の部長で、ややフォーマルな関係
• 丁寧さ:丁寧なビジネス表現
この、「丁寧さ」は、まず「丁寧なビジネス表現」、「一般的なビジネス表現」、「ややカジュアルなビジネス表現」の3つのうちから選ぶといいだろう。
「ややカジュアルなビジネス表現」にだけ、「やや」をつけるのは、AIの生成する「カジュアル表現」だと、日本人の感覚ではくだけすぎになることが多いからだ。AIの言語モデルの学習素材は公開されていないが、ネイティブの英語が多いのだろうな、と推察している。
まずは上記の3分類で指示し、英語表現が期待と違えば、「フレンドリー」「プロフェッショナル」などの表現を工夫して自分の感覚に合うように調整するとよい。
この3年、AIを使って英語で仕事をしているうちに、英文の推敲はほぼすべてAIで対応できるようになった。仕事柄、細かい誤りを避けたい英語文章については、3年前には英文推敲、翻訳会社にチェックを依頼していたが、すっかり縁が切れてしまった。
文章の翻訳に続き、会話の英語通訳、英語の学習でも、AIが大きな変化を起こしている。これから先の3年にどんな変化が起きるか、予想できない。
しかし当面は、AIが機械であること、人間的な感覚や判断を自動的に織り込めないことは忘れてはいけない。丁寧さなど人の感覚への対応が必要なときは、AIに明示的に指示する必要がある。丁寧さの指示を加えるのは少し面倒だが、最初に指示しておけば、やり直しや試行錯誤を減らせる。丁寧さの指示をすることは、AIを使うときのエネルギー負荷を抑える一助にもなると考える。

瀧野みゆき(たきの・みゆき)◎社会言語学者。東京生まれ、慶應義塾大学文学部卒。2016年、英国・サウサンプトン大学応用言語学博士。アップルコンピュータなどで仕事で英語を使う経験を重ねた後、イギリスに16年在住、その間イギリスの英語教授法等を学ぶ。現在は東京大学教養学部、慶應義塾大学ビジネス・スクールなどで、社会や仕事で「使うための英語」を教える。MBA Marketing/MA International Studies(米国・ペンシルベニア大学)、MA Management of Language Learning(英国・グリニッジ大学)、PhD Applied Linguistics(英国・サウサンプトン大学)。社会言語学者として、「共通語としての英語=ELF」を専門とする。


