この短いやりとりが波紋を呼んだのは、AIの便利さが賞賛される一方、AIが情報を処理するために使っているエネルギーの膨大さが、世界の懸念材料になっているからだ。
たとえば、アメリカのオンラインニュースメディア Voxは2024年3月、こんな記事を掲載したことがある。
AIのために作られるデータセンターの電力消費への懸念や、効率重視の世相の中で、AIと丁寧さの関係がどう変わるかはわからない。AIとの対話では用件さえ伝わればいい、丁寧な言葉は不要だろう、と考える人が増える可能性は十分ある。私も、3年前に比べ、AIとの対話が、用件だけの簡素なコミュニケーションに変わっていると感じる。
そんなAIという機械が、英語学習や英語を使うための最強のパートナーになりそうだ、という視点で、AIと英語と、丁寧さや感情に配慮する表現について考えたい。
2. 人間は相手に合わせたことばをどう学ぶか?
将来はわからないが、今は、人間同士のコミュニケーションでは言葉の丁寧さは必要とされている。丁寧さを全てそぎ落としたやり取りが一般化することは、とても考えにくい。
「丁寧さ」や「相手にあわせた言い換え」は、日本語の場合、文法書より、経験から学ぶ。
私たちは小さい頃から、日本語の社会生活の中で丁寧さの感覚を養う。親にはこう言うが、先生には少し違う言い方をする。友達にはもっとくだけた表現をする、といった使い分けを、いろいろな場面で、時に失敗しながら学んでいく。
母語では経験の積み重ねで学べる「相手にふさわしい丁寧さ」だが、外国語では非常に難しい。特に、日常生活で英語を使う機会が少ないと、相手にあわせた言葉を選ぶ感覚をつかむ機会はあまりない。日本の教室の英語学習は主に先生とクラスメートを相手に練習するが、相手や場面によって英語の表現を変えるだろうか。さらに、受験やテストを目標に、紙上での正確な文法、英単語の暗記、日本語訳が重視され、英語をコミュニケーションの道具として練習する機会そのものが少ない。
だから、目の前の相手に、どのくらいの丁寧さの表現が必要か、どう言えば相手の気持ちを傷つけないか、といった英語の感覚を養う必要性は、ほとんど見落とされている。その結果、仕事で英語を使い始めるとき、相手にあわせた丁寧さにまで考えが及びにくい。


