型にはまらない学生時代、シリコンバレーへの挑戦
ニュージャージー州の小さな町で3人兄弟の末っ子として育ったコルグローブは、いつも本に埋もれるように過ごし、研究化学者だった父親の影響で自然と理系への関心を深めていった。高校時代、上級数学プログラムを通じてコンピュータープログラミングの面白さに目覚めたが、自分は「優等生ではなかった」と語る。「退学はしなかったけれど、ほとんどそれに近かった」と当時を振り返り、授業に出る代わりに個人のコーディングプロジェクトに没頭していたと話す。「昔から、あまり型にはまるタイプではないんだ」。
ラトガース大学でコンピューターサイエンスの学位を取得した後、ベル研究所でコンピューターオペレーターとして働いていたコルグローブは、ある日、サンフランシスコのベイエリアでの面接の機会を得た。「その頃はまだ母と一緒に暮らしていて、『このままじゃ、50歳になっても実家暮らしのままだな』と思った」と彼は振り返る。1987年、コルグローブはサンノゼ行きの飛行機に乗り、夕陽に染まるヤシの木々と温かな気候に迎えられた。カリフォルニアの広大な景色には、当時の人気テック企業の広告看板が立ち並んでいたという。その光景に心を奪われた彼は、当時IBMの競合として知られたアムダール社のソフトウェアエンジニアとしての仕事を引き受け、SF小説や歴史書を中心に詰め込んだ78箱の本と、その他の荷物5箱を携えて3000マイル西へと移動した。
その2年後、コルグローブはデータストレージ企業のベリタス・テクノロジーズに創業エンジニアとして加わり、1993年の新規株式公開(IPO)から2005年にシマンテックが135億ドル(約2.1兆円)で同社を買収するまで在籍した。2008年までに彼は、統合後の企業の一部門で最高技術責任者(CTO)を務めるまでになり、経済的にも十分に安定していた。46歳にして、シリコンバレーの「技術者」たちが夢見るキャリアをすでに手にしていた彼は、そろそろ引退の時だと考えた。
一度は引退、家づくりを経て復帰を決意
彼は実際に引退し、その翌年に数百万ドル(数億円)を投じて、ロスアルトスに自らの理想の家を建てた。その設計と建築の過程で、コルグローブは自分の問題解決への情熱がコンピューターのコードに限らないことを改めて実感したという。「家を建て終えたとき、まだ引退する準備ができていないことに気づいた。それでスタートアップに参加しようと思って探したんだけど、面白いことをやっているところが見つからなかったんだ」。
2009年、コルグローブはカリフォルニア州パロアルトのベンチャーキャピタル、サッターヒル・ベンチャーズに「起業家インレジデンス(EIR)」として参加した。そこで後にPure Storageの共同創業者となるジョン・ヘイズと出会い、彼自身が最も精通していたデータストレージを軸にしたビジネスアイデアを練り上げた。
コルグローブは自ら技術分野に専念したいという強い意向を持っており、外部からCEOを迎えることを主張した。投資家の紹介で出会ったのが、かつてオラクルに買収されたBEAシステムズやヤフーに買収されたジンブラなど複数のスタートアップでCTOを務めたスコット・ディーツェンだった。最終的にディーツェンが2010年から2017年までPure StorageのCEOを務めた。現在Pure Storageを率いるのは、コルグローブが密接に助言を与えているCEOのチャールズ・ジャンカルロだ。
データストレージ業界の大手への挑戦、訴訟経てシェア奪取に成功
ディーツェンの言葉を借りれば、Pure Storageは創業当初から、データストレージ業界の既存の大手に対して、「正面からの総攻撃」を仕掛け、小規模なニッチ市場に甘んじるのではなく、主戦場であるエンタープライズ市場に真正面から挑んだ。この戦略は見事に功を奏した。ダイワ・キャピタル・マーケッツのエグゼクティブディレクター、ルイス・ミショーシャによれば、当時十数社あったフラッシュ系スタートアップの中でPure Storageだけが生き残れたのは、同社がEMCの市場シェアを真正面から奪いにいったためだという。Pure Storageは多くの元EMC社員を採用したことでも注目を集めた。
EMCは2009年、データストレージ大手として初めてフラッシュベースの製品を投入した企業だったが、2013年に同社は、Pure Storageに転職した元社員44人が知的財産や機密情報を盗んだとして提訴した。この訴訟は3年後に和解に至り、当時の売上高が7億2800万ドル(約1107億円)だったPure Storageは、2016年9月にEMCを670億ドル(約10.2兆円)で買収したデルに対し、和解金として3000万ドル(約46億円)を支払った。
「Pure Storageの事業と技術の根幹は堅固だが、その成功の最大の要因は、レガシーなデータセンター市場で強力な実行力を発揮したことにある。彼らはデルEMC、HPE、ネットアップといった既存大手から確実にシェアを奪ってきた」と、独立系AI業界調査会社Semianalysisの技術スタッフ、ジョーダン・ナノスは語る。


