人工知能(AI)ブームを追い風にデータストレージの需要が高まるなか、ジョン・コルグローブ(62)がメタとの大型契約をきっかけにビリオネアの仲間入りを果たした。コルグローブは、カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置くPure Storage(ピュア・ストレージ)の共同創業者だ。
資産約1800億円、服装はTシャツと短パンを貫く人物像
子供の頃から「コズ」の愛称で知られるコルグローブは、ウィーンのホテルの一室からZoomのインタビューに応じた。ロンドン、アムステルダム、パリ、ミュンヘンでのカンファレンスでの講演を控えた彼は、欧州の顧客との打ち合わせを前に短い休息をとっていた。休暇モードだったにもかかわらず、彼のその日の服装は、黒いTシャツにグレーのバスケットボール用ショーツ、サイズ16のニューバランスのスニーカーという、何十年もほとんど変わらないスタイルだった。
「服にロゴが入っているのが本当に嫌なんだ」と、メガネをかけたコルグローブは語る。ごくたまに冒険心が湧いたときに、Tシャツの色を変えてみることもあるという。しかし、ナスダックに上場するPure Storageの時価総額は、今や300億ドル(約4.6兆円。1ドル=152円換算)に達し、その4%を保有する彼の資産は約12億ドル(約1824億円)に上る。
Zoomでの取材の後、彼に改めてビリオネアという肩書をどう受け止めているのかを尋ねると、コルグローブは当たり障りのない言葉でかわした。「私は、すばらしい会社をつくるという楽しさと興奮に集中している」と彼はメールで淡々と答え、「Pure Storageがここまで成功したことには感謝している」と付け加えた。
メタとの契約が起爆剤、AIブームで売上高は過去最高
彼の言葉からは興奮ぶりをうかがい知ることはできないが、コルグローブとPure Storageは今、まさに特別な時期を迎えている。2009年にフラッシュドライブの登場を見据えて設立されたPure Storageは、AIブームによって高速で信頼性の高いデータストレージの需要が急拡大するなか、「奇跡の年」を迎えている。
同社は、メタのAIスーパーコンピューター構築を支援する契約を結んだことでも追い風を受けている。Raymond Jamesのアナリスト、サイモン・レオポルドによれば、この契約によってPure Storageの来年度の利益は最大100万ドル(約1億5000万円)押し上げられる可能性があるという。株価はここ1年で70%上昇し、過去最高値を更新。売上高は前年比12%増の32億ドル(約4864億円)と過去最高を記録し、2024年の純利益は74%増の1億700万ドル(約163億円)に達した。
Pure Storageのこの成長は、ここ数年、世界的なデータストレージ需要がほぼ横ばいで推移してきたなかで際立っている。IDCによると、世界の企業によるストレージシステムへの支出は2023年から2.5%増の335億ドル(約5.1兆円)で、2022年の落ち込みからわずかに回復したにすぎない。しかし、AI関連の投資は急速に伸び始めている。マッキンゼーの推計では、今後5年間で企業のAI需要がデータストレージ関連支出を最大8000億ドル(約121.6兆円)まで押し上げる可能性があるという。
フラッシュメモリー市場、約122兆円規模のAI需要が牽引
Pure Storageが強みを持つフラッシュメモリーの価格は、従来のハードドライブの2〜3倍に上る。しかし企業は、特にAIの導入と開発を競う今、より高速で効率的なフラッシュテクノロジーに対して高いコストを支払うことをいとわなくなっている。「フラッシュ技術とハードドライブ技術の長期的なトレンドは、今まさに転換点を迎えつつあり、近いうちに立場が逆転するだろう。フラッシュ分野のリーダーである当社にとって、これは極めて大きなチャンスだ」とコルグローブは語る。
たとえば最新のナビゲーション技術を例に挙げると、車に乗った際、AIを搭載したスマートフォンやスマートウォッチが、過去の走行履歴をもとに目的地や最適なルートを予測して提示する。このようなシステムが正確に作動するためには、過去の膨大なデータを高速かつ正確に呼び出すことが不可欠だ。
コルグローブにとって、現在のこの状況は、長年にわたる変化の集大成でもある。彼がPure Storageを設立した16年前、すでに業界のベテランだったコルグローブは、当時多くの企業が使用していたハードドライブが、いずれフラッシュドライブに取って代わられると確信していた。そしてその確信は投資家たちを引き込んだ。Pure Storageは、創業から5年間で5億2500万ドル(約798億円)超のベンチャー資金を調達し、2015年10月の上場時にはすでに36億ドル(約5472億円)の評価額に達していた。



