パエリアは皆で楽しむ喜び
パエリアという言葉は、この料理を作るための平らな丸い鍋を指す。そのため、この鍋を使って調理された米料理もそう呼ばれるようになった。チョリソやニンニク、魚介類などを含む米料理がパエリアと呼ばれることもあるが、これらは本場のバレンシアでは冒涜的な行為と見なされる。実際、地元の人々はこうした米料理に対しては別の(蔑称的な)呼び名を使っている。スペイン語で「アロス・コン・コサス」、つまり「何かが入ったご飯」だ。
バレンシア風パエリアの具材は、鶏肉、ウサギ肉、ライマメ、インゲンマメ、トマト、サフラン、燻製(くんせい)パプリカ、塩が基本となるが、アーティチョークやエスカルゴ、鴨肉を加える地元民もいる。パエリアは元来、地域の農場で働く人々に食事を振る舞うための実用的な方法として始まったもので、手に入りやすい食材が用いられていた。
風味を最大限に引き出すため、バレンシア風パエリアは直火で調理される。地元の果樹園のオレンジの木から作ったまきと、香りの強いローズマリーの小枝を使用するのが理想的だ。こうすることで、ハーブの強い芳香が加わるからだ。
浅い鍋を使う理由は、これらの香りを米に染み渡らせ、極めて重要な「スカラト(訳注:パエリアのお焦げ)」を作るためだ。スカラトは黄金色で硬めの食感があり、旨味の極みだ。これが、バレンシア以外の多くのレストランで見かける深い鍋を使って調理した(そして大抵はどろどろした)米の鍋料理と本場のバレンシア風パエリアを区別する特徴だ。
パエリアは古くから近隣住民同士の協力関係で成り立っていた農村共同体を反映し、集団で食されてきた。人々はスプーンを手にパエリアの周りに集まり、各自がピザの形をした大きく平たい鍋の自分に近い部分から食べた。今日でもパエリアは共同体の伝統を保ち、日曜日のご馳走や家族や友人との祝宴の主役となることが多い。


