スペイン東部バレンシアには、控えめながらも主役級の存在感を放つ食材がある。それは米だ。米はバレンシア料理の中心的存在であり、多くのレシピに登場するだけでなく、一部の地元レストランのメニューには米だけに特化した選択肢があるほどだ。
米はまた、スペイン全体を象徴する料理として最も有名なパエリアの主役でもある(ガスパチョとクロケタには申し訳ないが、絵文字ができたら教えてほしい)(訳注:ガスパチョとクロケタはそれぞれスペインの冷製スープとコロッケ)。パエリアはスペイン国境を越えて世界中に広まったため、地元の人にとっては冒涜(ぼうとく)的なものになることも多いが、発祥の地はバレンシアだ。
至高の穀物
スペインの東海岸に位置するバレンシア州は、バレンシア、アリカンテ、カステヨンの3つの県に分かれている。州都バレンシアはマドリードとバルセロナに次ぐスペインで3番目に大きな都市だ。同州には、バレンシア、アリカンテ、カステヨンといった都市に加え、地中海に面するコスタブランカ沿いの小さな美しい町だけでなく、数千もの農場も存在している。
多くの農家が野菜や果物(有名なバレンシアオレンジも!)を栽培しているが、この風景の中で最も目を引く宝石は、スペイン最大の湖であるアルブフェラ湖から生まれる作物だ。沼地、砂丘、水田に囲まれた沿岸の湿地帯であるアルブフェラでは、本物のバレンシア風パエリアに欠かせない短粒種の米が生産されている。
同湿地帯はスペインで消費される米の約15%を供給している。ここで生産される米の品種は、セニア、ボンバ、アルブフェラの3種が主流だ。それぞれの性質は若干異なるが、いずれも体積の2~3倍の液体を吸収する能力に優れている。この特性により、バレンシア風パエリアに最適な米となり、調理過程で加えられるあらゆる風味を引き立てる。真のパエリア通は、必ず最初に米の味を確かめる。他の具材は、この小さな女王を引き立てるために存在するのだ。



