気候・環境

2025.11.12 14:15

毎週1億9000万匹生産。世界最大「蚊の工場」ブラジルに建設

Wonderfulengineering.com

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デング熱の拡大を食い止めるための画期的な取り組みとして、ブラジルに世界最大の「蚊の工場」が開設された。この施設は毎週最大1億9000万匹の蚊を生産できる能力を持ち、サンパウロ州カンピーナスに位置している。1300平方メートルに及ぶこの工場は、一見ホラー映画のようにも思えるが、実際には同国が長年苦しんできた公衆衛生上の脅威に立ち向かうための革新的な戦略の中核をなしている。

ある細菌を意図的に感染させた「特別な」蚊

工場の内部では、技術者たちが昼夜を問わずネッタイシマカ(Aedes aegypti)を繁殖させている。この蚊はデング熱、ジカ熱、チクングニア熱を媒介する種として知られている。しかし、この施設で育てられている蚊は、通常の病原体を運ぶ蚊とは異なる。これらの蚊は、「ボルバキア(Wolbachia)」と呼ばれる天然の細菌を意図的に感染させられており、この細菌によって蚊の体内でデングウイルスが発達できなくなるのだ。

この特別な蚊が野生の蚊と交配すると、ボルバキアがその子孫へと受け継がれ、野生の蚊全体が徐々にデングウイルスを人間に感染させにくくなるという仕組みである。

生産工程は、温度を厳密に管理した多数の水槽で始まる。ここで幼虫が育てられ、成虫になるまで養育される。成虫になると、蚊はケージに移されて給餌される。オスの蚊には綿にしみ込ませた糖分溶液が与えられ、メスの蚊には人間の皮膚を模した袋に入った動物の血液が与えられる。蚊たちはおよそ4週間この環境で過ごし、その間に交尾して卵を産むことで、持続的で安定した生産サイクルが保たれている。

2024年、史上最悪のデング熱流行を経験

ボルバキア法は他の国々でも成功例が報告されているが、ブラジルでのこの取り組みは規模において前例がない。カンピーナスの工場では、年間で最大1億人を対象とする量の蚊を生産できるという。

この大規模プロジェクトは極めて重要なタイミングで始まった。というのも、2024年にはブラジルが史上最悪のデング熱流行を経験し、世界全体の報告症例の80%以上を占めたからである。この工場の稼働開始は、科学とバイオテクノロジーの力によってこの流行を反転させようとする決定的な一歩を意味している。

ブラジルの保健当局は、ボルバキアに感染した蚊を放出することで、デング熱の感染率を劇的に下げられるだけでなく、他の蚊媒介感染症からも人々を守れる可能性があると信じている。このプログラムは、「自然界で最も忌み嫌われる存在」を病気予防の味方へと変えるという発想が、感染症対策のあり方を根本から変えるかもしれないことを示している。

※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」10月12日の記事からの翻訳転載である

文=菅谷実帆 編集=石井節子

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