これらは習の最大の課題をますます難しくしている。中国本土の14億人に、貯蓄を減らし、支出を増やしてもらうことだ。この転換を実現するには社会保障制度の拡充が必要だが、習のチームの対応は遅い。
「これは中国の政策立案者にとって重要な問題だ」と米イェール大学の経済学者スティーブン・ローチはブログに書いている。「彼らは消費主導のリバランス(経済の再均衡)という命題にどのように優先順位をつけるべきだろうか?」
それに対するローチの「基本的な答え」は、「中国はまだ標準に届いていない世帯所得を押し上げるよりも、過剰な貯蓄を削減したほうが、得られる利益ははるかに大きい」というものだ。彼はさらにこう続けている。「このようなリバランスが実現すれば、中国は『復興の軌道』に乗るだろう。これは以前定義したように、2049年までに中国の1人当たりGDPが先進国の水準に収束していく成長軌道のことだ」
こうした改革が重要なのは、今年の上海株の上昇(約17%)は、習による改革推進が本格化するというナラティブ(物語)に基づいているからだ。だが、この期待先行トレードは裏づけに乏しい。アジア最大の経済が必要としている大きな改革のほぼどれをとっても、習は非常にゆっくりとしか進めていないのが実情だ。
こうしたもろもろの事情からして、習が中国の不確実な経済見通しを130%の関税でさらに曇らせてほしくないと思うのは当然だ。10月9日に習のチームが打ち出したレアアース(希土類)の新たな輸出規制も、トランプが最新の関税の脅しを引っ込めればあっさり緩和される可能性がある。今回ばかりは、トランプが「TACO(トランプはいつもビビってやめる)」というおなじみの行動をとるのは、ありそうなどころかむしろ不可避だ。
もし「トランプVS.習」のリアリティーショーの次のエピソードで深刻な世界的景気後退が起ころうものなら、両政権が世界でなお保っている残りのソフトパワーも大打撃を受けるに違いない。それは自国民の間でもだ。
習は米国の政治家のような選挙運動はやらないが、共産党の重鎮たちの視線を常に意識せざるを得ない。トランプによる世界で最も高い関税に苦しむのは、習のチームにとって2026年の過ごし方としてけっして望ましいものではない。


