気候変動に対応する日本
日本ワインの試飲会場にふさわしい、レンガ造りの風情ある県庁……ただし、この日の猛暑は、ゆっくり風情を楽しむ余裕がないほど厳しかった。「窓際の日当たりの良い場所なんて、サウナのようだった」と参加者が口々に振り返るように、冷房の効かない場所では、ワイナリーの人たちが扇子でお客様を扇ぐ光景まで見られたという。身の危険を感じるほどの猛暑は、日本ワイン業界が直面している現実を象徴するかのようだった。
気候変動に対応し、日本各地で変化が見られるのが、品種の多様化だ。受賞ワインも、以前は欧州系品種であれば、カベルネやメルロー、シャルドネなど「誰でも知っている品種」が上位を占めていたが、近年は白ワインではアルバリーニョやプティ・マンサン、赤ワインではプティ・ヴェルド、シラー、タナ、マルスランといった環境変化に強い品種に注目が集まる。
会場でひときわ客を集めていたのが、今回唯一、金賞よりさらに上のグランドゴールド賞を受賞した中伊豆ワイナリーだ。醸造家の水野直人氏は「標高が低く温暖で雨が多い、厳しい環境でワイン造りに取り組んできた。ようやく報われた」と笑顔を見せる。
プティ・ヴェルドに寄せられる期待
グランドゴールド受賞ワインの「伊豆シンフォニー・レッド2022 プレミアム」は、「プティ・ヴェルド:カベルネ・ソーヴィニヨン:メルロー=2:1:1」というブレンド。
プティ・ヴェルドといえば、「色や渋みを足す品種」として用いられる、ボルドー品種の助っ人役だ。近年、日本ではボルドー品種の栽培が難しい地域が出始め、この助っ人を主体に扱うワイナリーも増えてきた。 水野氏は「黒ブドウの色が着きにくいなかで、色も濃くなり、ちょうどよい酸味もある。ポテンシャルが高いブドウ」とプティ・ヴェルドに期待をかける。氏が5年間ワイン造りを学んだ山梨の丸藤葡萄酒工業は、1990年代からプティ・ヴェルドを栽培し、ワインを単独でリリースしてきたパイオニアだが、富山のドメーヌ・ボーのように、プティ・ヴェルド100%でワインを作るワイナリーも現れている。


