「バタフライ・ハグ」はなぜ効果的なのか
リズミカルな動きは、右脳と左脳の両方を刺激し、気持ちを落ち着かせ、平常心をもたらす。体の両側を刺激することで、神経系のはたらきが整い、短時間のうちに、脳のモードが「心配」から「通常運転」へと切り替わるのだ。
体の両側をゆっくり刺激することで、闘争-逃走反応とも呼ばれるストレス反応(交感神経系)にブレーキがかかり、休息-消化反応(副交感神経系)が活性化する。このエクササイズによって警報装置がオフになったあとは、冷静かつ明晰に、自信をもって物事に取り組むことができる。
これまでの研究から、マインドフルネスは、悩みや恐れ、不安の解毒剤であることがわかっている。こうした負の感情は、免疫機能を阻害し、「ベストな自分」でいることを妨げる。価値判断することなく、いまここで起こっていることに意識を向けることで、本来の防御機構が強化され、神経系が沈静化し、明晰な思考がもたらされ、ベストパフォーマンスが引き出されるのだ。
「バタフライ・ハグ」の効果は、最近の研究でも実証されている。ある研究では、心的外傷を抱えるがんサバイバーの研究参加者に「バタフライ・ハグ」を実践させつつ、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、脳内で何が起こっているかを記録した。この実験は、EMDR(眼球運動による脱感作および再処理)療法の一環として行われた。
治療前、研究者たちは参加者に、がん闘病体験のなかで最も苦痛だった瞬間を思い出すよう指示した。このときの参加者の脳スキャン画像は、心的外傷後ストレスと関係の深い部位の活性化を示した。活性化した部位の1つが扁桃体だ。また、情動抑制機能を司る脳部位である、内側前頭前皮質(mPFC)の活動低下も記録された。この組み合わせは、心的外傷後ストレスに典型的に見られる脳活動パターンだ。
次に研究者たちは、「バタフライ・ハグ」を含む治療セッションの実施中に脳スキャンを行った。その結果、介入後には、扁桃体の活動量低下と、全体的な脳機能の正常化が確認された。研究者たちによれば、参加者の脳には「バタフライ・ハグ」の実施の前後で顕著な変化が見られ、情動の安定化が促されたという。
終わりに
英国のヘンリー王子は2021年、メンタルヘルスをテーマにしたApple TV+の番組『The Me You Can't See』に出演し、「バタフライ・ハグ」を実践した。これを受けて「バタフライ・ハグ」への関心は急速に広まり、ソーシャルメディアで検索ワードとしてトレンド入りするまでになった。
あなたもぜひ、このエクササイズを実践し、そのあとで、思考が平静になったか、気分がリラックスして安らいでいるか、ストレスに落ち着いて対処できるようになったかを確かめてみてほしい。長期的には、職場でのストレスへの反応が抑えられ、不安が減り、過去や未来に心理的にとらわれることなく、「いまここ」により根差すようになれば、「バタフライ・ハグ」が効果を発揮しているといえる。
ネガティブな自動的反応を抑制し、神経系の働きを落ち着かせる
銃乱射、自然災害、経済の低迷といった、不確かなこの時代に圧倒され、不安やフラストレーションを抱えているなら、あるいは、物事があなたの思い通りにいかないときには、「バタフライ・ハグ」が、ネガティブな自動的反応を抑制し、神経系の働きを落ち着かせてくれるかもしれない。必要なのは、両腕をクロスさせ、羽ばたき始めようとする意志だけだ──人間の心臓の鼓動と同じくらい太古から続くリズムで。


