AI

2025.10.24 08:15

失われた非効率な時間を求めて 電通創造進化論 山西康太の場合

未知の領域に挑んでいくのが、「仕掛ける」の本質

——では、AIが出してきた答えの先は、どう考えたらいいですか?

advertisement

山西:正解みたいなものが1秒で手に入る世界でも、意味のないこだわりとか、負けない気持ちとか、自分はこうしたいという情熱が大事だと思います。そこは本質的に昔と変わっていない。僕みたいなプランナーは、自分が考えて面白いものを生み出したいんです。だから、AIがむちゃくちゃいいアイデアを出してきても満足しないんですよ。

——えっ、AIがいいアイデアを出してくれるなら、それでいいじゃないですか。

山西:仕事をする人はそこで満足するべきじゃないと思います。というのは、品質は地獄の時間みたいなところに宿っているからです。効率的じゃない領域にタッチすることでアイデアが良くなる。悩みもがく時間を経験しないと成熟しない。それは、いろんな工作を日々やっている中で感じますね。

advertisement

——地獄の時間ですか……。AIにこれだけ関わっている山西さんが、効率だけではなく地獄の時間が大事と言っていることに勇気づけられます。

山西:昔はどんなプロでも、戦略を出すまでに結構なコストがかかっていたけれど、そこをAIがやって、めっちゃ早くなっている。ということは、人間は出てきた答えを踏まえて、そこからどうするか、を楽しめるということです。

——楽しめるとは?

山西:人間がアイディエーションの真髄みたいな領域に集中できる時代が来たのだと思います。我々のようなプランナーにとっては、うれしいことですよね。

——山西さんは自分から仕掛けるスタイルで仕事をされていますが、「仕掛ける」にも効率的なものと非効率的なものがあるんですか?

山西:集団をバクっとつかんで平均値的にとらえるのが効率的な「仕掛ける」ですが、あまり面白くないんですよね。今、AIで開発しているツールは、一人のユーザーが、いつ、どこで何を買ったか、1年間の購買記録をデータ化して分析する試みです。同じことを全員分やれば、どういう気持ちになるとアイスを買うのかが可視化できるんです。

当面は効率的な「仕掛ける」が成立するけど、AIが普及すると消費者の意識も人の動き方も変わってきます。アニメをみんなが30秒で作れるようになったら、誰も見ないですよね。非効率な領域、未知の領域に挑んでいくのが、「仕掛ける」の本質だと思います。

次ページ > やらなくてもいいことだけをやっている状態が、いちばん楽しい

text by Yuri Nakausa/ photographs by Yuta Fukitsuka

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事