トランプ米大統領の1期目の貿易戦争が、ベトナムの富豪ダン・タン・タム(61)のビジネスに大きな追い風をもたらした。今回の関税政策は逆風となる可能性もあるが、タムには切り札がある。トランプとともに進める15億ドル(約2250億円。1ドル=150円換算)規模の高級リゾート開発プロジェクトだ。
約2250億円の新リゾートをベトナムで発表、トランプとタムが共同開発
今年5月、トランプ・オーガニゼーションの副社長を務めるトランプの息子エリックがベトナムを訪れ、新たなトランプブランドの不動産開発「トランプ・インターナショナル・フンイエン」を発表した。この総事業費15億ドル(約2250億円)の大規模プロジェクトには、5つ星ホテルや高級ヴィラ、そして全米オープンを2度制したブライソン・デシャンボーが設計を手がける2つのゴルフコースが含まれており、開発地は約1000万平方メートルに及ぶ。
起工式は簡素だが象徴的、ハノイ南約60キロで関係を誇示
起工式は、ハノイの南約60キロの野原に設けられた白いテントの下で行われた。テント内にはテーブルとプラスチックの椅子が並び、3週間前にエリックがカタールで同様の契約を結んだ際に訪れた中東の洗練されたオフィスとは対照的に、華やかさはほとんどなかった。だが、東南アジアのこの国と、この取引を主導したベトナムの起業家のタムにとって、それは大きな勝利だった。ベトナムのファム・ミン・チン首相とエリックの間に立ったタムは、金色の紙吹雪が舞うステージ上でカメラに向かって満面の笑みを浮かべた。
「このプロジェクトは単なる開発ではない。卓越性への誓いであり、文化の祝祭であり、ベトナムの未来への永続的な投資だ」とエリックは壇上で語った。タムも続いて、「この構想を実現できることに非常に興奮している」と述べた。
ライセンス料7.5億円をトランプ・オーガニゼーションへ支払う
この契約が締結されたのは、トランプが米大統領選に勝利する2カ月前の昨年9月、場所はニューヨークだった。この取引はすでにトランプに利益をもたらしており、6月に提出された最新の財務開示資料によると、タムの会社はこのプロジェクトのライセンス料としてトランプ・オーガニゼーションに500万ドル(約7億5000万円)を支払っている。
ただし、金の流れは一方通行ではない。タムの側にも、トランプに感謝すべき理由がある。この取引だけでなく、彼の現在の財産もまたトランプのおかげで築かれた部分があるのだ。ビジネス面で見れば、タムはトランプによく似ており、巧みなディールで不動産帝国を築き上げたが、その基盤は巨額の借金だった。そしてトランプと同様、過剰なレバレッジで崩壊寸前に陥りながらも、最終的には地政学的な追い風によって救われた。



