アジア

2025.10.20 16:30

トランプが救った「ベトナムの不動産王」、2300億円の豪華ゴルフリゾート建設へ

ドナルド・トランプ米大統領と息子のエリック・トランプ(Photo by Jeff J Mitchell/Getty Images)

工業団地デベロッパー、キンバック・シティの位置づけ

推定資産が4億ドル(約600億円)のタムは、ベトナムでも有数の富豪だ。彼は、工業団地開発会社キンバック・シティの34%と、上場通信インフラ企業サイゴンテルの29%を保有している。

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タムが2002年に設立したキンバック・シティは、ベトナムが国際市場に門戸を開き始めた時期に工業団地の建設に乗り出した。この動きが功を奏し、アップルのサプライヤーであるフォックスコンなどの大手メーカーが次々と同社の開発地に進出した。タムは、2007年には同社を上場させ、銀行や鉱業への投資を通じて資産拡大を図るために巨額の借入を行ったが、2011年の金利の急騰でほぼ全てを失いかけた。その後の数年間、彼は債務の返済と再編に追われ、2013年には債務総額が3億6000万ドル(約540億円)に達していた。

米中対立が追い風、メーカーが生産拠点をベトナムに移す動きにより売上と利益が伸長

転機が訪れたのは2017年だった。トランプが1期目の大統領に就任し、中国との貿易戦争を開始したことで、多くのメーカーが対中関税を回避するために生産拠点をベトナムへ移す動きを見せた。この構造的な変化によってタムは莫大な利益を手にし、低迷していたキンバックも再び活気を取り戻した。ベトナムの対米輸出は、トランプ政権の発足から2021年末までの5年間で119%増加し、キンバックの売上高と純利益も同期間にそれぞれ161%と54%伸びた。

現在、キンバックはベトナム国内で約8000万平方メートルの工業・住宅用地を保有しており、主要な入居企業にはキヤノンやLG、フォックスコンといった世界的メーカーが名を連ねている。時価総額が13億ドル(約1950億円)の同社は、米国との貿易に強く依存しており、昨年時点で顧客の9割以上を占める中国、香港、日本、韓国、台湾の企業の多くがベトナムで製造した製品を最終的に米国へ輸出している。

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「米国はベトナム最大の輸出市場であり、総輸出額の約3割を占めている」と、ハノイ拠点の投資銀行ティエン・ヴィエト証券のアナリスト、ティウ・ファン・タイン・クアンは指摘する。「キンバックの工業団地で組み立てられているハイテク製品や消費財の大半は、最終的に米国市場へ向けて出荷されている」。

ベトナムから米国への輸入品に46%の関税、翌週に株価が27%下落

トランプが今年1月に政権へ復帰した当初、タムにとって2期目のトランプ政権は、1期目のようには有利に働かないように見えた。彼はすでに2024年の時点で、入居企業への工業用地の引き渡しの遅れに苦しんでいた。キンバック・シティの2024年の売上高は1億1000万ドル(約165億円)、純利益は1700万ドル(約26億円)で、それぞれ前年から46%、81%減少していた。今年4月には、トランプは「解放の日」の関税の一環として、ベトナムからの輸入品に46%の関税を課すと発表。これを受けて、キンバックの株価はその翌週に27%下落した。

「トランプ・インターナショナル・フンイエン」の起工式

こうした状況の中で、5月に行われたハノイ近郊の「トランプ・インターナショナル・フンイエン」の起工式は、タムにとってまさに絶妙なタイミングとなった。彼は、第47代大統領の一族と自身との緊密な関係を、目に見える形で示せたからだ。それはまた、彼が前年初めから築いてきた関係の集大成でもあった。

「最初にエリック・トランプと接点を持ったのは、国際的なネットワークを通じてだった。トランプ・オーガニゼーションは、私がクリーンであること──マネーロンダリングも、ブラックリスト入りもないこと──を確認するため、徹底した身辺調査を行った。その慎重さに感銘を受けた」とタムはフォーブスへのメールで述べた。「他のパートナーも検討したが、トランプのグローバルブランド、高級開発における専門性、そしてベトナムの長期的な成長力を信じる姿勢が、私たちの目指す方向と最も合致していた」。

上半期は黒字で回復、7月の米中新協定で関税率20%に

キンバックの株価は、新たな工業団地の認可取得を追い風に6月までに回復し、同社は2025年上半期に売上高1億4000万ドル(約210億円)、純利益4700万ドル(約71億円)を計上した。そして7月にトランプはベトナムとの新たな貿易協定を発表し、関税率を20%に引き下げた。

ただし、この協定は、他国からベトナムを経由して米国に輸出される「トランシップ」製品に対しては40%の関税が課される。中国からの製品も対象となるが、どのような基準でトランシップ品と見なすのか、トランプ政権の判断基準はいまだ明確でない。

半導体とレアアースが鍵、ベトナムで産業エコシステムを構築

それでもタムは、貿易戦争から引き続き利益を得る態勢を整えており、自社の将来に強気の姿勢を崩していない。「トランプ政権下で導入された関税は短期的な不確実性をもたらしたが、同時に世界のサプライチェーン再編を加速させた。ベトナムにとっては構造的なチャンスだった」とタムは語る。そして、トランプの主要政策を踏まえながらこう続けた。「半導体や先端製造業がベトナムに移ってきている。若くて訓練可能な労働力、そして世界有数のレアアース埋蔵量という2つの強みを持つベトナムで、私の会社は次の産業界のエコシステムを構築する存在になろうとしている」。

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翻訳=上田裕資

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