部隊構成の変化に加え、ハマスは戦術も変更している。この2年の間に、ハマスはよりフラットで分散型の指揮系統で行動し、イスラエル国防軍との直接衝突よりもゲリラ戦に頼るようになっている。米NPO(非営利組織)武力紛争発生地・事件データ(ACLED)の9月の報告書によると、パレスチナの武装諸勢力とイスラエル軍の戦闘回数は半年前に比べて65%減っていた。また、ハマスによるイスラエルに対するロケット弾での越境攻撃の回数も、やはり大幅に減少していた。ハマスの保有するロケット弾やその他の弾薬の大半が破壊されたことなどが影響している。一方で、ハマスによる散発的なゲリラ攻撃は続いている。新たに採用された戦闘員は、こうした攻撃ならたいした訓練を受けずに実行できる。
ハマスが和平と安定に危険をもたらしかねないことから、20項目の和平計画ではハマスの武装解除がきわめて重要な部分になっている。だが、これが実現する兆しはいまのところない。それどころか、ハマスはガザでイスラエル軍に占領されていない地域に対する支配を再び強めようとしている。米CNNの報道によると、ハマスは協力者や情報提供者と見なす人物の所在の特定や拘束にも乗り出している。
ハマスがガザで優位な立場を維持しようとする一方、新たな暴力的勢力がすでに出現している。イスラエル軍の侵攻後、ガザではさまざまな犯罪組織が跋扈(ばっこ)するようになった。中心都市のガザ市では、ハマスと武装勢力や犯罪組織、有力氏族との間で血なまぐさい衝突が発生している。パレスチナ人の詩人で作家のヌール・アルアーシーはニュースメディアのニュー・ヒューマニテリアンへの寄稿で、イスラエル政府がガザ地区の武装犯罪組織を支援していると告発している。
注目すべきパレスチナ武装勢力のひとつに「人民軍」が挙げられる。人民軍は、英スカイニュースの調査報道でイスラエルの支援を受けている民兵組織のひとつとして特定されている。人民軍は数百人の戦闘員を擁し、主にベドウィン(遊牧民)のアブ・シャバーブ一族から集められている。反ハマス派のヤーセル・アブ・シャバーブに率いられ、ガザ南部のラファ市を拠点に活動している。人民軍はハマスに対抗すべくほかの武装勢力との連携を試みる裏で、オーストラリアのABCニュースによると麻薬の密輸や国連の支援物資トラックの略奪にも関与している。仮にハマスが武器を放棄したとしても、どのような新たな安定化部隊も、以前よりも犯罪がはびこるガザの現状に対処しなくてはならない。


