暗号資産

2025.10.17 16:00

NFT市場崩壊を生き延びたOpenSea、「暗号資産取引」サービスへ方針転換

OpenSea共同創業者でCEOのデヴィン・フィンザー(Photo by Rita Franca/NurPhoto via Getty Images)

NFT特化からの方針転換、ミームコインも扱う暗号資産取引所へ

もはや回復の見込みがほとんどないNFT市場の3年にわたる低迷を耐え抜いたOpenSeaは、大きく舵を切っている。月間数百万人の訪問者を抱える顧客基盤を活かし、同社はNFT取引の枠を超えて、22種類のブロックチェーン上で暗号資産を一括取引できる「ワンストップのプラットフォーム」へと変貌を遂げつつある。この転換によって、OpenSeaはミームコイン熱にも乗ることができるようになった。

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この発想のきっかけを与えたのは、34歳のフィンザーの妻、ユー・チー・リラ・クオだ。暗号資産の初期投資家である彼女は、プリンストン大学で哲学と政治学の博士課程に在籍し、ハーバード・ロースクールで法学位を取得。2016年に学界を離れ、暗号資産のトレーディングファンドを設立した。2021年にクオはファンドを辞め、その年の後にフィンザーと出会った。フィンザーは「OpenSea 2.0の“沈黙の共同創業者”は彼女だと思っている」と語る。クオは、全社の上位戦略から、複数チェーンの取引を集約する技術設計に至るまで、数百時間をフィンザーとともに費やしたという。

新戦略によって取引量が急回復、2週間で約2400億円の暗号資産取引

OpenSeaの新たな取り組みはすでに成果を上げ始めている。同社は、2025年10月前半の2週間だけで、16億ドル(約2384億円)の暗号資産取引と、2億3000万ドル(約343億円)のNFT取引を仲介した。この額は、5月の総取引額1億4200万ドル(約212億円)から急増しており、10月は過去3年以上で最大の月間取引額となる見通しだ。新体制下のOpenSeaは、Uniswap(ユニスワップ)やMeteora(メテオラ)などの分散型暗号資産取引所から売買注文を集約し、仲介手数料として取引ごとに約0.9%を得ている。この手数料収入は直近2週間で約1600万ドル(約23億8000万円)に達した。

新生OpenSeaは、古くからトレーダーの間で語り継がれる格言──「相場に逆らうな(Don’t fight the tape)」──を体現している。ビットコインの急騰が連日ニュースを賑わせ、暗号資産が主流化し、予測市場の人気が高まるなかで、投資家たちの新たな合言葉は「リスクを取れ」だ。その状況は、株価が1年間で400%上昇したロビンフッド(Robinhood)、Kalshi(カルシ)、Polymarket(ポリマーケット)といった予測市場で急増する取引量を見れば明らかだ。

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Bored Ape Yacht ClubのようなNFTの市場価値は暴落し、ピーク時に約40万ドル(約6000万円)だった平均フロア価格は現在3万2000ドル(約477万円)にまで下がり、多くの投資家が損失を被った。それでもなお、新たな投機家たちは臆することなく市場に戻ってきている。過去2年間、ミームコインは業界最大の熱狂の的となってきた。「マクロの潮流には逆らえない。ならば、受け入れるしかない」とフィンザーは語る。

フィンザーは、すべての暗号資産を自由に取引できるようにすることこそが、現在の市場にとって最も「正しい方向性」だと考えている。その点で彼は、3年前にトレーダー中心の設計を掲げてNFT市場に参入し、瞬く間に取引シェアの大半を奪った最大のライバルであるBlurから多くを学んだ。

Blurとの競争を通じて、フィンザーはリーダーシップのあり方についても学んだ。Blurが取引手数料とロイヤリティを撤廃した際、彼はクリエイターへのロイヤリティ率を上げたり下げたりと迷走を重ね、多くの関係者の顔を立てようとした。しかし、その場しのぎで合意を優先する経営スタイルは機能しなかった。「こうした問題への対処は、実際に経験し、失敗しながらでなければ上達しない」とフィンザーは言う。彼は周囲からのプレッシャーに屈せず、自らの直感を信じるようになったのだ。

この2年間を振り返り、フィンザーとOpenSeaの元CTOナダブ・ホランダーは、「大規模な人員削減は不可欠だった」と口をそろえる。組織構造をフラット化し、技術マネージャー職をすべて廃止したことで、エンジニア全員がコードを書く体制に戻したのだ。フィンザーはまた、急増する顧客需要に合わせて大量採用を続けるというシリコンバレーの常識を否定するようになり、今では会社をできるだけ小規模に保とうとしている。こうした考え方は、人工知能(AI)時代に入って再び注目を集めている。

競合Blurは失速、創業者の沈黙が続く

一方、かつての競合Blurは姿を消しているようだ。DappRadarによると、同社の直近1カ月の取引量は9200万ドル(約137億円)まで落ち込み、2023年初めの10億ドル(約1490億円)超から激減した。Blurの公式Xアカウントと共同創業者兼CEOティーシュン・ロケールのアカウントは、今春以降不自然な沈黙を続けている。ロケールは、フォーブスが送った取材メールやテレグラムのメッセージにも応じなかった。「暗号資産の世界には、入って儲けたらすぐ抜ける人間も多い」とフィンザーは語る。

OpenSeaの最大の魅力は「ブリッジ機能」

暗号資産の取引アプリは今や無数に存在する。しかし、現在主流のブロックチェーンが登場してから10年以上が経つにもかかわらず、異なるチェーン上に存在する数百万種類ものトークンを、ユーザーが自らのウォレットで安全に保管しながら(いわゆる「セルフカストディ」で)簡単に取引できる仕組みを確立した企業は、存在しない。

たとえばコインベースは、中央集権型の取引プラットフォームを通じて約300種類のトークンを取引できるようにしているが、これは世界に存在するトークン全体のごく一部に過ぎない。しかも同社は銀行のように、顧客の資産を自社で保管している。多くの一般ユーザーは銀行利用に慣れているためそれを当然と感じているが、暗号資産を「常に自分で完全に保有・管理すべきだ」と信じる暗号資産の原理主義者にとっては看過できない問題だ。FTXが破綻した際に資金を預けていた投資家に聞けば、その理由は明らかだろう。

最近になってコインベースは、「Base」という新しいサービスを通じて、より多くのトークンを分散型取引所で取引できるようにし、ユーザーが自ら資産を保管できる仕組みを拡充している。

フィンザーによれば、OpenSeaの最大の魅力は、22種類のブロックチェーンを横断して取引できる「ブリッジ機能」にあるという。こうした仕組みを簡単に使えるプラットフォームはほとんど存在しない。実現には多くの課題があり、膨大なブロックチェーン上のトークンを網羅的にインデックス化し、ユーザーに最良の価格を提示し、操作を直感的にし、新しい資産を発見できるUI(ユーザーインターフェース)を整え、詐欺被害を防止する必要がある。

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翻訳=上田裕資

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