暗号資産を保有する「デジタル資産トレジャリー(DAT。Digital Asset Treasury)」企業が急増中だ。上場企業が株式や社債で資金を調達し、その資金でビットコインなど暗号資産を取得するモデルである。Architect Partnersによれば、DAT戦略を公表した上場企業は累計228社にも上る。その大半は2025年に発表しており、各社が保有する暗号資産の合計は1480億ドル(約22.3兆円)規模に達した。
米国市場では、こうした株は保有暗号資産の時価に対する割増・割安(mNAV=時価総額÷保有暗号資産の時価)で評価されるのが通例だ。足元ではプレミアムの圧縮や純資産割れの銘柄が増え、「調達ラッシュ後の淘汰」に入った。本稿では、生き残りの条件を「1株当たりトークン量の増加」「資本市場への説明力」「規模到達後の転換社債・優先株活用」を軸に、淘汰局面の論点を整理する。
資金調達でビットコインを買う、新たな企業戦略がブームに
ここ数カ月の間に、暗号資産の世界では、ある「模倣」が一気に広がった。
その手法を最初に編み出したのは、マイケル・セイラー率いるビットコイン保有企業「ストラテジー」だ。そのやり方は一見シンプルで、上場企業を新たに設立またはリブランドし、社債や株式発行で資金を調達し、その資金で特定の暗号資産──主にビットコインだが、最近ではイーサリアム、ソラナ、アバランチなど──を購入する。
彼らは、トークンを直接保有せずに暗号資産に投資したい投資家に対し、自社株を「より安全で、しかもレバレッジの効いた手段」として売り込んでいる。
先駆者ストラテジーの株価は、実に2200%以上も上昇
暗号資産価格の上昇と、デジタル資産への追い風となる規制緩和を背景に、このモデルは一部の企業で顕著な成果を見せている。2020年8月に初めてビットコインを購入したストラテジーの株価は、それ以来2200%以上も上昇し、保有するビットコインの時価を一貫しておおむね上回るプレミアムで取引されている。
日本のメタプラネットも同様の「デジタル資産トレジャリー(DAT)」モデルを2024年4月に採用しており、暗号資産の購入を始めてから株価は3830%も急騰した。
このモデルの魅力はあまりに大きく、1つの新興セクターを形成するまでになっている。パロアルト拠点の金融アドバイザリー会社アーキテクト・パートナーズでこの動きを追っているエリオット・チュンによると、DAT戦略を打ち出した上場企業はこれまでに228社にのぼり、その大半は2025年に入ってからこの戦略を発表したという。
これらの企業は、「トークンを保有すれば、ストラテジーのように株価が急騰する」という期待を背景に、合計で1480億ドル(約22.3兆円。1ドル=151円換算)を暗号資産に投じている。



