政治

2025.10.16 12:00

中国の「一帯一路」構想は「トロイの木馬」なのか? 静かに広がる安全上の脅威

中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)によって建設中のペルーのチャンカイ港。2024年10月02日撮影(Rommel Gonzalez/Getty Images)

中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)によって建設中のペルーのチャンカイ港。2024年10月02日撮影(Rommel Gonzalez/Getty Images)

中国の巨大な「一帯一路」構想が2013年に始動した時、筆者は大いに称賛していた。理論の上では、この構想は歴史上最も野心的な社会基盤整備計画であり、今もなおそうだ。これはアジアから欧州、アフリカ、米州へと伸びる現代のシルクロードと言ってよい。

だが、年月が経つにつれ、筆者は一帯一路構想を「トロイの木馬(訳注:無害なプログラムを装って端末に侵入し、安全上の脅威となる悪意のあるソフトウエア)」と見なすようになった。一帯一路は米政府が目を離している隙に、新興市場を静かに浸食していくからだ。この現象は特に中南米諸国ではっきりと表れている。

米国が中南米諸国に対し、社会基盤や技術、防衛などの分野で信頼できる長期的な代替案を示すことができなければ、かつては自国の「裏庭」だった同地域における影響力を失う危険性があると筆者は考えている。

中国の支配による新たな時代の幕開け

中国の習近平国家主席は昨年11月にペルーを訪問し、総工費13億ドル(約2000億円)を投じたチャンカイ港の開港式典に出席した。同港は南米初の「スマート港」として、高速道路や鉄道、電力網のネットワークを誇る。中国国営の海運最大手、中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が建設し、同社が運営も担っている。中国政府は、同港が8000人の雇用を創出し、中国と南米間の輸送費用を2割削減するとしている。輸送期間も約10日短縮され、中国は貿易とサプライチェーン(供給網)で優位に立つことになる。

米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の推計によれば、チャンカイ港は拡張工事が完了すれば年間350万個のコンテナを処理することができるようになり、南米で3番目に大きな港となる見込みだ。また、中国の国営企業が完全に支配する港としては最大規模となる。実際、CSISは、中南米には中国企業に関連する港が37カ所あるとしている。比較のために申し添えると、同地域には米国が運営する港は1カ所もない。

南米大陸の隅々にまで及ぶ中国の影響力

一体、いつの間にこんなことになってしまったのだろうか? 中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟して以降約10年で、同国と中南米諸国間の貿易は年平均31%の割合で拡大していった。両地域間の二国間貿易額は2024年に5180億ドル(約78兆円)に達し、中国は米国を抜き、中南米諸国にとって最大の貿易相手国となった。この数値は2035年までに7000億ドル(約106兆円)に達するとの予測もある。中国はアルゼンチン産のリチウム、ベネズエラ産の原油、ブラジル産の大豆と鉄鉱石の最大の輸入国だ。

世界第2位の経済大国である中国は、中南米諸国の社会基盤整備の主要な担い手でもある。コロンビアの首都ボゴタやメキシコの首都メキシコ市の地下鉄駅からエクアドルの水力発電ダムに至るまで、中国の手は及んでいる。中国はわずか20年で中南米諸国向けの社会基盤整備計画に2860億ドル(約43兆円)以上を融資し、アフリカ向けの総投資額に迫る規模となっている。

その一例が、太平洋を横断して中国とチリを結ぶ高速海底ケーブルだ。だが、一部の専門家は、同プロジェクトにより、中国が2017年に制定したサイバーセキュリティー法に南米大陸が結び付けられる恐れがあると警告している。同法は企業に対し、中国国家情報機関への協力を強制するものだ。

対外支援を巡る米中の戦略の違い

米国にとって、これは戦略上の危機であると同時に、放置による危機でもあると筆者はみている。米政府が中南米地域でテロ対策や短期的な支援に重点を置く一方で、中国は長期的な戦略を展開し、港湾や鉄道、電力網への資金提供を進めてきた。これにより、同国は今後数十年にわたる、いや、恐らく今後何世代にもわたる地元の善意を育み、関係を構築してきたのだ。

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翻訳・編集=安藤清香

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