到着してみると、ライアンにはドリアンの家が「とても日系米国人的な景観」に見えた。石灯籠が立ち、車道には銀色のトヨタ・カローラがシートで覆われて駐車されている。とても大富豪の家とは思えない。その朝はうだるような暑さで、近くの芝生の上には十数人の記者が座り込み、疲れ切った様子で退屈そうに雑談していた。ライアンはこれまでにも似たような張り込みを経験していて、今回も同じような展開になるだろうと予想した。何時間も待って何も起きず、手ぶらでオフィスに戻ることになるのだろう、と。
ところが突然、玄関のドアが開き、見た目のさえない、少し身なりの乱れた男性が姿を現した。記者たちは一斉に駆け寄り、彼を取り囲んで質問を浴びせ始めた。「とにかく今は質問なしだ」とドリアン・ナカモトは言った。「俺はタダでランチを食いたいんだよ」。ライアンは集団の後方にいたので、誰か別の記者がこの瞬間をものにするだろうと思っていた。ところが「奇妙な沈黙が流れました。なぜかみんな、黙ってしまったんです」とライアンは言う。
ビットコインの創始者がタダ飯を必要とする?
そこでライアンが手を挙げて言った。「じゃあ、僕がランチをおごりますよ」
「こいつと行く」とドリアンは答えた。
ライアンは群がる記者たちをかき分けて、「彼は僕と来るんだ」と言い、ドリアンを年季の入った青いプリウスに乗せた。
車の中でドリアンは「寿司が食べたい」と言った。
「いいですよ」とライアンは答えたが、「ビットコインの創始者がタダ飯を必要とするものなのか?」と疑問を抱いたという。
ライアンはテープレコーダーを回し、質問を始めた。後日、彼はその録音データを私に送ってくれたのだが、そこには2時間44分に及ぶ会話が収められていた。
ドリアンはすぐに、自分はビットコインの発明者ではないと否定した。「俺は全然関係ないんだ。ランチ代を払いたくなくなったのなら、それでもいいよ」
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