市場規模7兆ドル(約1066兆円)の保険業界では、多くのプロフェッショナルがリスク評価よりも、膨大な書類処理に時間を奪われている。こうした非効率を打破しようとしているのが、サンフランシスコ発のスタートアップ「FurtherAI」だ。同社は、大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が主導したシリーズAラウンドで2500万ドル(約38億円)を調達した。このラウンドには、Yコンビネータやネクサス・ベンチャー・パートナーズのほか、保険業界に特化したファンドのエクシデンスやBTVも参加した。これにより、FurtherAIの累計調達額は3000万ドル(約45億7000万円)に達した。
FurtherAIは設立からまだ2年も経っていない。CEO(最高経営責任者)のアマン・グールと、共同創業者でCTO(最高技術責任者)のサシャンク・ゴンダラはいずれもアップルでSiri向けコア言語モデリングを手掛けたAI研究者だ。二人はYコンビネータの2024年冬のバッチ(年に数回開催されるスタートアップ企業向けの集中プログラム)を経てFurtherAIを立ち上げた。彼らは10年以上前に知り合い、初期のAIプロジェクトに共に関わった仲だ。グールによれば、Yコンビネータのパートナーであるトム・ブロムフィールドから「深刻なデータ課題を抱える業界を一つ選び、そこに全力を注ぐべき」という助言を受けたことが、保険業界に特化するきっかけになったという。「法律や住宅ローンの分野も検討したが、最終的に保険を選んだ。その理由は、システムが未熟であったことと、保険のプロフェッショナルたちと働くことが本当に楽しかったからだ」と彼は語る。
しかし、この決断はグールが「ピボット地獄」と呼ぶ試行錯誤の連続を招き、最終的に商業用損害保険の領域にたどり着くまで続いた。グールとゴンダラは、この分野のワークフローを学ぶため、ドーナツ一杯の箱を持ってベイエリアを車で回り、ブローカーから話を聞いた。「1週間で25~30人と面談した」とグールは振り返る。彼らは、バリューチェーンの大半がブローカーレター、プロパティスケジュール、ACORDフォーム(保険業界で広く使われている標準化された書類)、損害履歴という4種類の文書で成り立っていることを突き止めた。FurtherAIが登場する以前、引受担当者はデータを手作業で要約し、社内システムに再入力する必要があった。しかし、現在ではFurtherAIのシステムに文書を送信するだけで、データが自動的に解析・正規化・統合される。
グールはFurtherAIを、「保険業界向けに訓練されたChatGPT」と表現する。同社の初期顧客からは、処理スピードの向上、見積もり申請の成功率アップ、エラーの減少などの成果が報告されている。保険業界プラットフォームの大手アクセレラントでビジネスオペレーションの最高責任者を務めるヴェンカット・ラマンは、FurtherAIについて「複雑な企業ワークフローを短期間で構築できる優れたパートナーだ」と評価する。また、リービット・グループのローリー・フラナガンも「FurtherAIの導入は当社にとって画期的な出来事だった」と語る。彼女は、導入によって業務処理スピードと精度が大幅に向上したと述べ、将来的な拡張にも柔軟に対応できるプラットフォームである点を高く評価している。



