米中の貿易戦争が再び燃え上がる気配を見せるなか、中国は「殴られたら殴り返す」という強硬姿勢を崩していない。逆に、トランプ米大統領からはTACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもびびってやめる)の雰囲気が漂い始めている。
中国が米国を追い詰めているのは、米国から大量に買い付けていた大豆の輸入先の変更、中国が世界市場で圧倒的な影響力を持つレアアース(希土類)の輸出規制、米国関連船舶からの特別港湾料の徴収の3つだ。李昊(りこう)東京大学大学院准教授は「中国は、いずれも先に手を出したのは米国だとしています」と語る。「大豆の場合は米国の保護主義を警戒した結果だし、レアアースは米国の半導体規制への報復です。特別港湾料の徴収開始は、米国による中国関係船舶への入港料付加と同じ、14日から始めるとしています」
中国外交部の林剣副報道局長は3月の記者会見で「米国が関税戦争や貿易戦争などに固執するなら、中国は最後まで付き合う」と宣言していた。米中は春先に貿易戦争が燃え上がった際、ストックホルムなどで行った貿易経済協議で追加関税と一部対抗措置の停止で合意、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」米国事業の米企業への売却も進めていた。ところが、米商務省が10月7日、中国向けの先端半導体技術の規制措置を発表したため、「中国の目には、米国の態度が矛盾していると映ったようです」(李氏)。
トランプ氏は中国によるレアアース規制に対抗し、11月1日から中国からの輸入製品に100%の追加関税を課すと発表。香港メディアによれば、中国は11月8日から、高性能リチウムイオン電池と人工ダイヤモンドの輸出規制に踏み切る方針だという。まさに「最後まで付き合う」姿勢と言える。
李氏は、中国が「トランプ政権に最後まで付き合えるように、しっかり準備してきました」と語る。実際、中国の9月の輸出額をみれば、米国向けが6カ月連続でマイナスを記録したものの、全体は前年比で8.3%増になった。大豆の輸入先をブラジルなどに切り替えたように、貿易の多角化が進んでいる結果と言える。「逆にいえば、米国も今後、レアアースの輸入先の多角化を図るでしょう。でも、レアアースに関しては、現状で中国が生産の7割、加工の9割を握っています。短期的には米国も簡単には多角化を図れないでしょう」(李氏)
李氏によれば、中国内で米中貿易戦争に懸念を示す声がゼロではないという。「経済や気候変動などに関係する人々は心配しているようです。それでも、トランプはTACOだからと考える人も多く、懸念というよりは、かたずを飲んで見守っているという表現が適切でしょう」(李氏)



