海外

2025.10.16 17:00

電池用リチウムを「塩水」から安価に抽出、米ユタ州で進む380億円規模のプロジェクト

ユタ州のグレートソルト湖(Leah Zastrow / Getty Images)

“リチウムバレー”ソルトン湖地域は高温と有害成分で難航、Lilacは撤退

米国では、カリフォルニア州ソルトン湖地域が“リチウムバレー”としてリチウム生産の最有力候補地と目され、ユタやスマッコーバー層と並ぶ比較対象になっている。米国民には「塩水リチウム=まずソルトン湖」が半ば常識扱いで、カリフォルニア州も安価なリチウムの供給地として期待を寄せている。

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しかし、この地域はサンアンドレアス断層の地下深くに、超高温の火山性塩水がたまっており、豊富なリチウム資源を抱えているとされる。しかし現時点では、その塩水からヒ素・鉛・カドミウム、放射性物質など、さまざまな成分を分離してリチウムだけを抽出する作業は、当初の想定よりもはるかに難航している。Lilacも2020年にスタートアップのControlled Thermal Resources(コントロールド・サーマル・リソーシズ)とこの地域で共同プロジェクトを立ち上げたが、まもなく撤退した。

「この地域の塩水は、非常に高温であることに加え、有害物質を含む多様な成分が溶け込んでいる点が課題となる。危険物質(ハズマット)の処理方法を確立し、すべてを再び地中に戻す仕組みが必要だ」とLilacの創業者スナイダッカーは2022年にフォーブスに語っていた。

アーカンソー南部からテキサスが有望、東方は採算が悪化

こうした有害成分は、地表にあるグレートソルト湖の塩水にはほとんど含まれておらず、問題にはならない。そしてスマッコーバー層の塩水はリチウム濃度が極めて高く、とりわけアーカンソー州では、エネルギー企業や鉱物会社にとって非常に魅力的な資源とみなされている。

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「アーカンソー州の南部では、リチウム濃度が300ppmから600ppm超に達しており、これは極めて良好な水準だ」とアーカンソー大学で安定同位体研究室を率いる地球科学者のエリック・ポロックは説明する。「テキサス州との州境付近では、それを上回る濃度が確認されている可能性もある。つまり、この資源開発はアーカンソー州とテキサス州を中心に展開されるだろう。ルイジアナ州にもわずかに広がるかもしれないが、東へ行くほど経済的な採算は取れなくなる」。

Lilacはユタ州で自社の処理施設を開発しているものの、将来的にはこの技術を大手企業に提供することを目指している。グレートソルト湖で同社が計画中の商業施設は、同湖およびアルゼンチンでの試験プロジェクトの成功を踏まえたもので、ドイツではNeptune Energy(ネプチューン・エナジー)との提携も進めているほか、他地域でも事業を展開している。

必要資金の約3分の2を確保、累計調達は約479億円に到達

サリーによると、同社はユタ州の施設の建設に必要な2億5000万ドル(約380億円)のうち「約3分の2」をすでに調達済みで、2026年第1四半期までに資金調達を完了させたい考えだ。2016年に社長兼CTOのデイブ・スナイダッカーによって設立されたLilacはこれまでに、Breakthrough Energy Ventures(ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ)やBMW i Ventures(BMW iベンチャーズ)、Earthshot Ventures(アースショット・ベンチャーズ)などから計3億1500万ドル(約479億円)を調達している。

「世界にはさまざまな種類の塩水資源が存在するため、単一の技術ですべてをカバーすることは難しい。しかし、私たちにはトップ3〜5社に入るチャンスがあると思っている。米国内でリチウムのサプライチェーンを構築していくための試みの一翼を担いたい」とサリーは語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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