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2025.10.16 17:00

電池用リチウムを「塩水」から安価に抽出、米ユタ州で進む380億円規模のプロジェクト

ユタ州のグレートソルト湖(Leah Zastrow / Getty Images)

世界生産の約3分の2は塩水の蒸発池由来、直接リチウム抽出(DLE)は南米と中国で商用化

世界で生産されるリチウムの約3分の2は、南米を中心に設けられた塩水の蒸発池で回収されている。これは塩水を蒸発させてリチウムを濃縮する製造プロセスだ。ロンドンに本拠を置く調査会社Benchmark Minerals Intelligenceのディレクター、キャメロン・パークスによると、Lilacが進める「直接リチウム抽出(DLE)」方式は、米国ではまだ広く普及していないものの、南米や中国ではすでに商業利用されているという。

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「興味深いのは、2035年までにDLE処理技術が塩水由来リチウム供給の51%を占めるようになると予測されている点だ」とパークスは語る。

DLE方式が従来の採掘コストよりも安価な点を重視

Lilacが重視するのは、DLE方式が従来の採掘よりも安価であるという点だ。リチウム価格はここ数年、激しく変動しているが、現在は採掘コストとほぼ同等の1トンあたり約1万ドル(約152万円)で取引されている。グレートソルト湖の塩水に含まれるリチウム濃度は、チリ、アルゼンチン、あるいはスマッコーバー層のような高濃度の塩水の4分の1から3分の1程度に過ぎない。それでもサリーCEOは、ユタ州でのDLE方式による生産コストが1トンあたり約7000ドル(約106万円)に抑えられると見積もっている。リチウム濃度が高いスマッコーバー層の塩水を用いれば、生産コストは1トンあたり約5000ドル(約76万円)、つまり採掘コストの半分程度に下がる可能性があるという。

もし彼の見立てが正しければ、将来的にEVバッテリーの価格は劇的に下がるかもしれない。

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Lilacがコストを抑えられるのは、同社が用いるDLE処理技術に、独自開発したイオン交換技術を使用しているからだ。この技術自体は古くから存在し、水道水を軟水化する装置などに広く使われてきた。サリーによると、Lilacの技術はネバダ州の自社工場で製造した特殊設計のビーズを使用し、汲み上げた塩水を通過させることで、リチウムを微量単位で吸着させる仕組みになっている。吸着した物質は希薄な酸溶液で洗浄され、純粋なリチウムイオン溶液が得られる。この溶液を処理して、電池グレードのリチウムを生成するという。

もっとも、塩水からリチウムを取り出すためのハイテク手法を開発しているのはLilacだけではない。スタンフォード大学の研究チームは昨年、採掘コストの40%未満でリチウムを生産できる抽出技術を開発したと発表した。この手法は使用する水や化学薬品の量も少なくて済むという。ライス大学ペンシルベニア州立大学アルゴンヌ国立研究所の科学者も、有望な新技術を相次いで発表している。

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翻訳=上田裕資

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