海外

2025.10.16 17:00

電池用リチウムを「塩水」から安価に抽出、米ユタ州で進む380億円規模のプロジェクト

ユタ州のグレートソルト湖(Leah Zastrow / Getty Images)

世界市場は約4.3兆円規模、今年は約26%増の見通し

トランプ政権が電気自動車(EV)の購入への優遇措置を撤廃するなど、気候変動対策に関する連邦政府の取り組みを大きく後退させたにもかかわらず、電池向けリチウムの需要は増え続けている。鉱業情報サイトMining.comによると、世界のリチウム市場は昨年時点で推定280億ドル(約4.3兆円)規模に達しており、今年は26%増の約150万トンに拡大する見通しだ。主なけん引役は、リチウム消費全体の75%超を占めるEVの販売拡大と、エネルギー貯蔵用途の需要増となっている。

advertisement

米国ではEVの伸び鈍化も、公益向け蓄電需要が急増

米国ではEV販売の伸びが中国や欧州ほど急速ではないものの、大規模な太陽光発電所・風力発電所から得られる余剰電力を蓄えるため、公益事業者による蓄電池需要が急増している。

米国で使用されるリチウムの大半はチリとアルゼンチンで採掘されるが、実際の加工と精製は中国で行われている。そのため、安定した国内供給網を構築する必要性から、エネルギー長官クリス・ライトは、政府が先月、ネバダ州のサッカーパス鉱山の開発を手がけるバンクーバー拠点のリチウム・アメリカズに5%を出資することを決定したと発表した。この出資は、ゼネラル・モーターズ(GM)との共同出資の5%分に加えられるものだ。サッカーパス鉱山は、今後数年のうちに本格稼働すれば、年間約4万トンの電池グレードのリチウムを生産すると見込まれている。

同様の理由から、トランプ政権は7月、電動モーター用磁石の製造に不可欠な希土類鉱物を供給する米国唯一の鉱山を運営するMPマテリアルズに4億ドル(約608億円)を出資した。

advertisement

サッカーパス鉱山周辺の先住民団体・環境保護団体から激しい反対

ネバダ州サッカーパス鉱山には膨大な量のリチウムが埋蔵されているものの、その開発は長年にわたり、周辺の先住民団体・環境保護団体から激しい反対を受けてきた。約73平方キロメートルに及ぶ大規模な露天掘り鉱山のこのプロジェクトには、原鉱石を商業用リチウムに加工するための硫酸工場が併設予定で、気候変動の影響で干ばつが深刻化している米国南西部の乾燥地帯で、年間約64億リットルの水を消費すると見込まれている

塩水からの直接リチウム抽出なら、環境への影響が小さい

これに対し、塩水からの直接リチウム抽出は、液体を処理施設に汲み上げて処理し、再び元の場所に戻すという単純なプロセスだ。

「この方法であれば環境への影響ははるかに小さい。巨大な露天鉱を残すわけではない。地下から塩水を汲み上げ、処理が終われば再び地中に戻す。だから帯水層を乱すこともない。土地の利用も環境負荷も、従来の採掘に比べればごくわずかだ」とサリーCEOは語る。

ユタ州環境品質局のベンジャミン・ホルコム基準・技術サービス部門長によると、同局はLilacのグレートソルト湖での計画について問題を確認しておらず、最近完了した実現可能性調査の結果を精査している段階だという。

次ページ > 世界生産の約3分の2は塩水の蒸発池由来、直接リチウム抽出(DLE)は南米と中国で商用化

翻訳=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事