日本企業のDXが周回遅れである原因は、テクノロジーと経営の接続性の希薄さとそれを生み出す組織構造にあった―?そして、その裏にはコンサルの儲かる構造も。
経営とテクノロジーを一体化させ「生きた経営OS」をもたらすという日本発のコンサルティングファーム・グロービング。テクノロジーを用い、経営のスピードを段違いに上げることで株価を3倍に押し上げたというグロービングの方法論「Tech Transformation(TX)」とは何か。精鋭チームが語る、本来あるべきテクノロジーの力を使った変革の姿とは。
紙屋 平(写真左下。以下、紙屋) DXという言葉が日本でも浸透し10年近くが経ちますが、実態は未だ欧米の企業と比べ遅れをとっており、多くの日本企業では、テクノロジーを最大限に活用したトランスフォーメーションが成功し、経営に大きなインパクトを残している状態とは言えません。
欧米の方法論を活用した改革の請負人であるコンサルティングファームが多くの日本企業の支援を行っているのに、なぜDXは進まないのか。欧米企業と日本企業の違いも含めた問題の本質に迫りながら、解決するために我々グロービングが提唱する「Tech Transformation(TX)」の狙いやその考え方について話していきたいと、皆さんに集まっていただきました。
私自身、前職の外資系コンサルティングファーム時代から20年以上、テクノロジーを活用したコンサルティングに携わってきましたが、その原因は企業側の体質とコンサル側の支援の在り方の両方にあるように感じています。まずは、経産省時代から日本経済を俯瞰してこられた小宮さんから、企業側の問題点を中心にお聞きしたいのですが、日本企業におけるDXの現状をどう見てきたかお話いただけますか。
DXを阻む“高度成長の残滓”──サイロと実装主義が生んだ構造的麻痺
小宮 義則(写真右下。以下、小宮) 官僚時代と、その後の企業での経験から言わせていただきますが、問題の本質はデジタル化以前に全社的な変革を起こすための企業内の土壌にあります。
この10年ほどのDXだけでなく、昔からこの問題はありまして、例えば、30年ほど前の官僚時代にも繊維製品の情報化を仕掛けたことがありました。当時、アメリカのIBMが、バーコードを活用してアパレル商品の色違い、サイズ違いまで踏まえてコードを割り振り、それを小売店と共有することで情報化を一気に進めており、日本でも同じように進めようとしたところ、百貨店向け営業担当者など現場の強い反対でうまくいきませんでした。
要するに、彼らは企業全体の効率性や生産性の向上ではなく、自分の仕事がなくなることを気にしたわけです。これと同じ構造がいまも続いています。製造業などが特にそうですが、入社以来、その多くが同じ部署で育つため、全社的な改革への受容性が低く、部署としての個別最適化の意識が勝ってしまいます。
これが右肩上がりの経済ならば、経験値が増すことで規模の利益が時間を通して働き、個別最適の積み重ねが企業全体の成長につながりますが、今のように世の中の変化が激しいと、この組織構造が障害になる。しかも連携に乏しいサイロ化した組織でこれまでうまくやってこられたこともあって、数字よりも経験や勘が優先されてしまうわけです。
これを勘と経験と度胸、さらにどんぶりを加えて「KKDD」と揶揄するんですけどね(笑)。伝統的なサイロ化された組織の中で現場の効率化にとどまり大きなトランスフォーメーションを起こせないのが日本企業の悪い癖ですね。
関屋 憲彦(写真左上。以下、関屋) そうですね。海外の企業は企業全体の戦略をどうデジタルで実現するかをちゃんと考え、練り上げるのですが、日本の企業はまだ現場の効率化といった側面が強く、それをDXと呼んでいます。本来は新たなテクノロジーで経営自体を根本から別のものへ変えていくものであるはずが、小宮さんのおっしゃったとおり、現場はそこまでの改革を求めていない。
加えて、コンサルティングファームも安きに流れて、現場の効率化を実現するためだけのシステム導入に走る傾向にありますね。その方が実行は簡単ですし、コンサルティングとしての売り上げもすぐに立つので。もちろん、コンサル側は改革まで至っていない状況を把握しているはずですが、自分たちのビジネスが優先されるために抜本的な改革をナビゲーションしてこなかったということですね。
髙木 健一(写真右上。以下、髙木) コンサル業界がお金に群がることができるのは、問いの立て方を、システムをいかにうまく導入するかという実装論に矮小化しているからです。
本来ならば、問うべきことはテクノロジーを入れた結果として、どう経営価値につながるか、のはずなのに。でも、そこにはつながらない。テクノロジーは経営と直結して初めて価値を生み出すので、それ以外の投資は無駄遣いに他ならないとつくづく感じます。
この数年、特にAIを中心としたテクノロジーの劇的な進化は経営の在り方を大きく変えるインパクトがあります。このタイミングで改めてテクノロジーを経営につなげることこそ我々の出番なんじゃないかなと思いますね。もちろん、単なるシステム導入と比べてはるかに難易度が高い仕事ですが。
紙屋 みなさん、ありがとうございます。大きく二つの問題点が見えてきましたね。
一つ目は、テクノロジーは経営と接続性を持たせてこそ価値があること。日本企業の多くでは経営に直結しないテーマがDXの名の元に推進されてきたと言えます。
二つ目は伝統的なサイロ化された組織の中で現場効率化にとどまること。このため経営目線での改革が起こりにくい土壌である。加えて言うなら、本来は外部の視点でドライブすべきコンサルタントが「ミイラ取りがミイラになり」機能してこなかった。
改めて、CxOの伴走者(シェルパ)としてテクノロジーと経営を強固に結びつけた戦略を描く、そして、単なる綺麗ごとを並べた戦略策定にとどまらず、クライアント企業のより中に入り込み、人を変え、組織を変え、現場で一緒に汗をかき改革をハンズオンで実行するというグロービングのコンサルティングのやり方が必要であることが実感できました。
サイロがサイロを生む──IT・コンサル・経営が断絶する日本型構造の罠
小宮 時代は変わりこの問題点はより顕著に表れてきています。
例えば製品開発ではアフターサービスの現場で得たデータが活用できているかで大きく変わってきます。自動車会社などわかりやすいですが、顧客が何を求めているかをアフターサービスからデータを吸い上げ開発に活かしています。
古い会社なんかが特にそうですが、アフターサービスの地位が未だに低く、彼らが現場から得たフィードバックが効かない構造になっている。その風土が組織のサイロ化を加速し、改革を阻む元凶となっているといえます。
紙屋 組織構造のサイロ化で言えば、業務部門とIT部門のサイロ化もDXの大きな阻害要因になっていないですかね。業務側が出した要望をIT側は実装するだけで、業務側はテクノロジーの、IT側はビジネスの理解が相互に不足している。加えて、両者に隔たりがあるなら、それをつなぐ役割としてコンサルタントの出番な気がしますが、残念ながらそこも機能していないですね。
それは、コンサルティングファーム自体もサイロ化してるからだと思います。戦略を立てるコンサルタント、システムを構築するコンサルタントと各々が、サイロ化されたクライアントにくっついているので、これじゃあ何も変わらないですよね。
テクノロジーだけでは絶対に経営は変えられないし、テクノロジーという武器を使いこなせないと経営を変えることはできないので、私を含めてここにいる全員がそうだと思いますが、ずっとこの状態にモヤモヤしていましたね。
関屋 とくに大手のファームがそうですが、どんどん人を増やしているので、増やした人たちを養うための案件が必要です。そう考えれば、大きなシステムを入れることがいちばん効率がいいわけです。しかもサイロ化しているので、各部署に個別にアプローチをしてその要望に応えればいい。
その結果、デジタルトランスフォーメーションではなく、業務のデジタイゼーションになってしまう。でも、サイロ化されているため、クライアントの現場にとってもコンサル側も互いの要望に応えているから、それで良かった。そのため、御社のためになるからと、本質的な議論である組織に横串を通す戦略を持ちこんでも、なかなかうまくいかなかったわけです。
DXを動かすのは経営者の本気度──変革ごっこに終止符を
紙屋 構造的な課題がクリアになってきましたが、一方で日本においても改革が成功した企業も多くあり、その共通項は経営者であるように思えるのですが、いかがでしょうか?
小宮 そうですね。経営者で変わりますからね。例えば、大手重電メーカーの中には経営危機を経て大変革を成し遂げたケースもあります。
すなわち、変革の大きな原動力のひとつが危機感です。私の知る別の企業でも、一事業部門だけが迅速なDXに成功しました。それは、その部門のクライアントがすべて海外だったからで、欧米のライバル会社の工場を見学したところ、その工場には人がおらず、データが機械を動かしていた。
これじゃあ、10年後には誰からも相手にされなくなると、ERPの導入、業務の徹底したデジタル化、CO2の削減まで大改革をものすごいスピード感で推し進めています。海外で勝とうと思えば、もはやデジタル、テクノロジーから逃れられませんから。
髙木 確かに欧米の企業であれば、トップがテクノロジーを経営の根幹に据えないといけないことを理解しているので、企業全体の方向性も一致していますが、日本では全ての経営者がテクノロジーの及ぼすインパクトを正しく評価し、危機感を持っているわけではないですね。
かつ、テクノロジーを最大限に活用できないことによる経営リスクはAIの台頭により増大する一方ですね。だから、我々のようにテクノロジーと経営をつなぐことに注力する存在が、企業もコンサル業界も変えていけると思うわけです。
紙屋 まさに、経営者の本気度がDXの成功の最大のポイントといってもいいですよね。
当社は立ち上げの際に「6つの“Don'ts”」というものを掲げましたが、そのなかに、「変革ごっこにお付き合いしない」という文言があります。要は、経営者の本気度を求めているわけです。だから、テクノロジーについてもしっかり理解していただき、その上で自分の会社をどうしていきたいのかを固めることに徹底的に時間を費やします。
もちろん、テクノロジーは進化が激しいので、早くやった方が効果は出ます。でも、それよりは「なぜ」やるのかの方が大事なのです。逆に最初の部分さえしっかりやれば、システムの導入などは、ある意味、誰がやってもできますからね。
関屋 「なぜ」は、経営トップが考える自社の提供価値を起点にします。顧客接点において、デジタルやテクノロジーを使って顧客に価値を提供し、そのデータを取得してビジネスのパフォーマンスを継続的に上げていく。
それを我々は「データ駆動型経営」と呼び、経営の思いを引き出しながら、数字で見せ、かつ現場とどのようにつながっているのかをストーリーとして見せるように工夫しています。
髙木 その他に気をつけているのが、システムを導入する際の話のもっていき方。組織がサイロ化していると、「WHAT(何を)」を決めたら一足飛びに「HOW(どうやって)」に行きがちです。
でも、「WHY(なぜ)」を構想の段階に入れて、その価値を経営的な観点で考えられるようにしています。とくに経営資源を一括管理するERPのような基幹システムは、必要悪なインフラ投資と捉えがちですが、「WHY」を入れることでさまざまな基盤になることができるようになるわけです。
我々が支援したSAPを活用した全社改革プロジェクトでは、プロジェクトの初期の段階でこの「WHY」を徹底的に議論しました。業務プロセス上の自社の競争力として強化すべきところと徹底的に効率化すべきところを経営視点で洗い出す、また、データドリブンで経営をするためにどのようなデータを使い、どのような意思決定をするのか、そのための基幹業務とはどうあるべきかを「WHY」を起点に考えていくのです。
結果、経営意思決定の圧倒的なスピードアップ、非効率業務の効率化によるコスト削減など経営を支える基盤として株価3倍に繋がる業績向上に寄与した取り組みとなりました。
経営者がリードし、TXが伴走する──テクノロジーで変革を確実に
紙屋 プロジェクトをスタートする時に、「経営陣を巻き込まないとうまくいかない」と言ったりしますが、その時点でうまくいかないですね。改革に巻き込むのではなく、改革を「リード」する必要がある。経営陣が自社をどう変えたいのか、それはなぜなのか、どうアプローチするのかを自分の言葉で語れる必要があるということですね。
どこまで現場に任せるかは経営者次第ですが、基本的に経営者が思いを込めなきゃいけないし、理解していなければならないと考えています。でも、同時に、我々がその橋渡しや技術の紐解きといった形で支援していくので、経営者がテクノロジーやデジタルに不安を感じていても心配することはありません。
関屋 一方で、組織のサイロ化は未だ根深い問題なので、デジタルでどういうビジネスを実現していくのか、といった会社全体の絵に対しては、幾重にも重なる横串を通していかないと全体最適にはならないでしょう。
幸い、当社にはジョイントイニシアティブというグロービングの社員がクライアント先に出向し、CDOなど組織の核となる人材として、「内なる外」として中から変革していく仕組みがあり、凄くうまくいっているので、こうしたものが突破口になりますね。
小宮 全社最適は大企業になればなるほど難しい最適化問題になりますが、個人的には、テクノロジーの力を借りることで部分最適の範囲が広がり、全体最適につながる可能性が出てきたと思っています。
前職でも膨大なデータを可視化するソフトウェアを導入したところ、最初は部門毎、階層とバラバラでしたが、慣れることでデータがうまく統合され、現場で何が起こっているのか、そして全体としてどうまとまっているかを一瞬で把握できるようになってきました。
こうなると、自分のサイロの中しか考えられなかった人も、会社全体の姿、向かおうとするところを理解できると思いますよ。
紙屋 テクノロジーの力で部分最適を全体最適につなげるというのは非常に興味深い発想ですね。その裏にはテクノロジーの可能性を信じ、ビジョンを持ち改革をリードしてきた小宮さんの力が大きかったと思います。テクノロジーを真に理解し、使いこなせる経営者が日本で増えていくことが重要ですね。そんな経営者に伴走することがまさに我々の使命ですね。
失われた30年のなかで日本の組織の悪いところばかりが指摘されますし、今日も課題感が中心でしたが、社員同士の自主的な補完関係や一人一人が役割を超えて日々改善を行う文化、それを後押しする“人”が主である日本流経営は欧米にも負けない力強さを持っていると感じています。そこにテクノロジーの力を掛け合わせれば高度経済成長をリードした世界に名だたる企業がこれからも日本から多く生まれてくると信じています。
我々は欧米流のコンサルティングではなく、日本流経営に根差した支援の仕方をこれからも貫き通していきたいと思います。
歴史を見返した時、社会を変えるイノベーションは全てテクノロジーから生まれてきました。正直、戦略が世の中を変えたことはないと思っています。だからこそ、テクノロジーを経営と結びつけ、最大の武器としダイナミックな変革を起こす、その中心に主役であるクライアント企業の伴走者として我々がい続けることを確信しています。
同じ思いを持つコンサルタントは多くいると思いますが、テクノロジーがただの道具扱いされていると感じているのならば、ぜひ一緒に経営を、日本の企業を、日本を、世界を変えていく我々の仲間になってください。御三方とも熱い思いをお聞きでき進むべき道がよりクリアに見えた気がします。本日はありがとうございました。
グロービングのTXについて詳細は下記をチェック
グロービングTX (Tech Transformation)
https://globe-ing.com/service/consulting/tx/
グロービング
https://globe-ing.com/
紙屋平(かみや・たいら)◎グロービング上級執行役員/エグゼクティブパートナー。大阪大学理学部、神戸大学大学院経営学研究科を経てAccentureにて約20年のコンサルティング経験を経て現在に至る。多数のDX推進やシステム導入案件に従事。システム導入においては基幹システムを中心に数多くの大規模改革案件を責任者としてリード。
小宮 義則(こみや・よしのり)◎グロービング シニアエグゼクティブアドバイザー。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省し、33年の官僚経験を経て特許庁長官を最後に退官。その後、IHIのCDOなどを経て、現在に至る。DX、宇宙開発、安全保障、産業金融、知的財産など、多分野にわたる経験と人脈を有する。
関屋 憲彦(せきや・のりひこ)◎グロービング執行役員/パートナー。一橋大学経済学部卒業後、大手総合商社のIT部門、外資系コンサルティングファーム等を経て、現在に至る。テクノロジーをどうビジネスに役立てるか?という問いに答えるべく、製造業を中心にDX/IT戦略やエンタープライズ・アーキテクチャ、DX/IT組織改革、DX/IT案件の構想策定・ベンダ選定・PMO、デジタルビジネスの企画等のテーマでの豊富な支援実績を有する。
髙木 健一(たかぎ・けんいち)◎グロービング執行役員/パートナー、CMO(マーケティング)兼CWO(ウェルビーイング)。京都大学理学部卒。香港科技大学(HKUST)経営学修士(MBA)。ベネッセコーポレーション、アクセンチュア、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、Strategy&/PwC Consultingを経て現職。テクノロジーを武器に企業の潜在力を解放し、経営価値につなげることを中核テーマとして追求しており、戦略・業務・人・組織・テクノロジーを横断した構想〜変革の伴走支援に強みを持つ。
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