栄養が詰まった最強の調味料
古代に作られたガルムの残留物や、現代の類似品の栄養素を分析したところ、ガルムの驚くべき優れた特性が明らかになった。
・オメガ3脂肪酸が豊富。とりわけ多いのは、脳の発達と心血管の健康、免疫調節に欠かせないEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)だ。よく知られているように、現代西洋人の食生活は、こうした脂肪酸が不足している
・体内に吸収されやすいアミノ酸が豊富。吸収されやすいのは、発酵の過程で酵素が働き、分解が進むためだ。体がそれほど頑張らなくても、たんぱく質が消化・吸収されるということだ
・ミネラルが豊富。とりわけ多いのは、カルシウム、リン、マグネシウム、鉄分といった、骨格や代謝の健康に不可欠な栄養素だ
・ビタミンB群が豊富。神経系の機能とDNA合成に欠くことのできないB12も含まれている
・有益な酵素と、プロバイオティクス作用をもつ可能性のある成分が豊富。ただし、塩分濃度が高いので、完成したガルムでは、生きた微生物の作用が抑制されている可能性がある。
進化論の観点から見ると、発酵食品は、人類の生存にとって課題になる「食品保存」と「栄養素の確保」という2つの大きな問題を解消してくれる、実に優れた解決策だ。食品を発酵させると、より日持ちするだけではなく、その過程で栄養素が分解されるので、体内に吸収されやすくなる。こうした発酵プロセスは、人の腸内細菌の働きそっくりだ。つまり、消化を外部の微生物にうまくゆだねているようなものだ。
古代ローマ人は、微生物学を理解していたわけではないだろうが、ガルムが健康と機能に及ぼす効能を本能的に察知していた。
帝国拡大の燃料となったガルム
ガルムが古代ローマ帝国の拡大を後押ししたといっても過言ではないだろう。古代ローマ軍は、時には1年以上も、膨大な距離を行軍していた。そして、そのための燃料は食料だった。その点、ガルムは軽くて持ち運びしやすく、常温保存が可能な必須栄養源だ。ハードな肉体労働に従事し、新鮮な農作物や肉を入手することがほとんどできない男性たちにとっては特に貴重だった。
ガルムはまた、塩分濃度が高い発酵副産物だったので、抗菌作用があった。ガレノスをはじめとする古代ローマの医師は、消化不良や傷の治療のため、さらには一般的な強壮剤としてガルムを摂るよう指示した。ガルムに薬効があったというのは大げさだろうが、特定の病原菌を抑制したり、消化管の健康を間接的に促進したりする可能性があることは、現代の研究で裏付けられている。
ガルムは、文化と食生活の「共進化」に関する典型例といえるだろう。古代ローマは、スペインや北アフリカ、イタリア南部にガルムを大量生産する工場を建設するなどして生産体制を整え、ガルムを帝国全域に供給した。そうするなかで彼らは、物流と身体の健康の両方を最適化した──身体的な持久力と認知能力、さらには士気を支えるかたちで、人々を養ったのだ。


