現代のスーパーフードといえば、ケールやキヌアだ。スピルリナやアサイーといった、新しく登場した食べ物を思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、生物学的に見て最強、栄養学的に見て完璧でありながら、歴史の中で忘れ去られてきたスーパーフードがある。史上最大の帝国の一つに数えられる古代ローマ帝国を支えた、重要な食料「ガルム」だ。
古代ローマの「忘れ去られたスーパーフード」であるガルムは、魚を発酵させた魚醤だ。
進化生物学者である筆者は、人間の体が何千年もの間、さまざまな環境や食生活にどうやって適応してきたのかを研究している。生物的に見たとき、ヒトに必要となる栄養は古代ローマ時代とさほど変わりがない。しかし、人間の食生活は劇的な変化を遂げた。古代文明を生きた人たちが口にしていた食料を再発見することは、単なる歴史の勉強にとどまらない。人間の体が何を消化するようにできているのかを理解するための方法でもある。
その意味でガルムは、産業化以前の食生活で得られた栄養がどのような相乗効果を持っていたかを示す最良の事例の一つかもしれない。
ガルムとは何か
ガルムは、古代ローマ時代の食生活に欠かせない主要な調味料で、魚を発酵して作られていた。イワシやサバ、カタクチイワシといった脂質の多い小型の魚を素焼きのツボに塩と交互に入れて重ね、何週間、時には何カ月も天日干しすると完成する。発酵のあいだにしみ出てきた液体は、風味とコクが豊かで、味わい深かった。東南アジアで作られている魚醤の古代ローマ版といえるだろう。
ガルムは、食べ物の風味を高める調味料であるばかりか、古代ローマの料理や医学、商取引の中心をなすものでもあった。最高品質の「ガルム・ソキオールム(garum sociorum)」は高価で、口にできたのは上流階級だけだった。しかし、貧しい人々もガルムを水で薄めた「リクアメン(liquamen)」を食していたし、出征中の兵士から、ローマの元老院議員まで、あらゆる社会階層に親しまれていた。
とはいえ、ガルムが単なる塩気の強い調味料以上の存在だったのはなぜだろうか。



