サイエンス

2025.10.15 18:00

オオカミから分岐し、ヒトの素晴らしい伴侶になったイヌの歴史

Shutterstock.com

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イヌは、いまでこそヒトの最も親密な伴侶だが、彼らの物語は野生から始まった。イヌの最近縁種であるハイイロオオカミは、いまも北半球の森林やツンドラで暮らしている。イヌとオオカミが共通祖先をもつのは確かだが、イヌの起源は、かつて考えられていたよりも複雑だ。

従来、化石証拠からは、イヌならではの形質の出現は3万年以上前にさかのぼることが示唆されていた。一方、遺伝子研究からは、イヌとオオカミの分岐はこれよりもずっとあとに起こったという結果が得られていた。

推定年代が食い違うという謎は、ある研究チームが2015年に、ロシアのタイミル半島で発見された3万5000年前のオオカミのゲノム解析行ったことで、ついに解明された。

彼らの分析から、現代のイヌの祖先は、最終氷期極大期(約2万6千年前~約2万年前)より前に、すでにオオカミの系統から分岐していたことが明らかになった。この年代は、従来の推定よりもはるかに古い。この研究ではさらに、現代のイヌは複数のオオカミの集団を祖先にもち、単一集団由来ではないことが示された。すなわちイヌの家畜化は、単一の事象というよりも、地域ごとに程度がばらつく形で、漸進的に進んだプロセスだったということだ。

実際、北極圏のイヌの在来品種の一部は、いまも古代のタイミル半島のオオカミ集団に由来するDNAを1~27%保有している。この事実は、イヌの家畜化の物語が、非常に複雑に絡み合った歴史に根差したものであることを裏づけている。

ヒトとイヌの絆、文化的・歴史的ルーツ

だが、本当の意味でイヌとオオカミを分けるものは、両者の遺伝子に刻まれた遺産だけではない。それ以上に重要なのは、イヌがヒトとのあいだに培ってきた絆だ。

オオカミはヒトの野営地のまわりをうろついていたかもしれないが、イヌはヒトとの関係をさらに深めた。数万年におよぶ家畜化の歴史のなかで、イヌはヒトの身振りを理解し、社会的合図に反応し、能動的にヒトを伴侶として求めるように進化した。

イヌの進化の証拠は、遺伝子だけに刻まれているわけではない。ヒトの文化と歴史にも、はっきりと痕跡が残されている。例えば、シベリア東部のシスバイカル地域で得られた考古学的証拠からは、一部の古代狩猟採集民が、イヌやオオカミの遺骸に対して、ヒトに行ったのと同じような処理を施していたことが明らかになった。

埋葬された動物の状態を詳しく検討したこの研究によれば、一部の動物遺骸には、特別な個体として扱われていた証拠が見られ、「霊魂」をもつ存在とみなされていた可能性さえある。これらの個体の死に際して、人間の葬儀と同等の儀式が行われていたのだ。

こうした知見からは、ヒトが有史以前から、社会的パートナーや霊的存在として、イヌに高い価値を置いていたことが示唆される。初期のイヌとヒトの相互作用は、密接で協力的な絆の基礎を築いた。それが数万年にわたって進化を続けた結果、現代におけるヒトとイヌの素晴らしい関係が花開いたのだ。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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