近年、レストランにおいては、地域の関わりや次世代の育成がますます重要視されるようになってきている。
「アトミックス」のパクシェフは、去年ソウルにオープンしたラボで、韓国の若いシェフを招いて一緒にテーマに沿った料理を作り、インスピレーションを得てもらうなどの活動をしている。「若手を育て、韓国の食のレベルを高めたい。すでに有名なシェフがいるから、彼らよりも有名になれないだろう、と考えがちな若い人たちに夢を持たせることも自分たちの世代の仕事だ」と語った。
ラスベガスを中心にレストランを複数展開するシェフに話を聞くと、「アメリカでは、セレブリティやインフルエンサーの行くレストランの人気が高く、高級レストランを“ブランド”として捉える傾向がある。カジュアル店にしても、知名度のあるチェーン店へ行く人が多い」という。また、トランプ関税などにより食材の価格が上昇し、「コスパの良い大規模チェーンに人が流れることに繋がっている」そうだ。逆にいうと、小規模な個人オーナーの店や、その地域ならではの独自性に根ざした店は、現在苦境に立たされていると言える。
南米で食文化が花開いたように
かつて南米には、地域に根ざした美食を楽しむ文化がなく、例えば、ペルーの「セントラル」のヴィルヒリオ・マルティネスシェフやチリ「ボラゴ」のロドルフォ・グズマンシェフらは、当初、地元のゲストからの支持が得られなかった。その状況を変えたのが、「ラテンアメリカの50ベスト」だった。
グズマンシェフは、地元ジャーナリストに「牛の餌に使うような草を使った料理など食べたいか? 料理を持ってきてくれ」と酷評され、「客が入らないため、借金がかさんで夜逃げ寸前だった。ランクインできていなければ店は閉店していただろう」と、振り返る。今やチリを代表するレストランとなり、世界のコラボレーションイベントなどで引っ張りだこだ。
「セントラル」は世界一のレストランとなり、日本にも同じ哲学を持った「MAZ」をオープンするなど、世界でペルーの食文化を広める活動を行っている。
50ベストは2002年に「世界のベストレストラン50」をスタートしてから、2009年に「世界のベストバー50」を、2023年に「世界のベストホテル50」を、さらに2024年に「世界のベストヴィンヤード50」を立ち上げ、ホスピタリティ業界全体に拡大している。ドリュー氏は「50ベストは、個々の店だけではなく、文化理解のプロモーションでもある。シェフだけではなく、チームとローカルコミュニティと共に働く人々にスポットライトを当てたい」と語る。
来年以降も北アメリカ版は毎年行われることになる。年月を経ることで、地域のなかだけに留まり、消えかけていた、多様性あふれる食文化が花開いていくことに期待したい。


