しかしAIは、ある選手がリスクを冒し出場することが、長期的には個人とチーム双方にとってマイナスになることをデータで示す。データは、個人の健康とチームの勝利が同じ線上にあることを可視化し、より賢明な意思決定を促す触媒となる。そして、これまでデータが圧倒的に不足していた「女性アスリートの新たなフロンティア」が切り開かれようとしている。女性の身体は月経周期など複雑な変動要因を持つため、医学研究の多くは男性を基準としてきた。AIアプリ「Wild.AI」は、女性特有の生理学的データに基づいてトレーニングや栄養摂取を最適化。これにより、女性アスリートは自身の身体のサイクルを味方につけ、これまで到達できなかったレベルのパフォーマンスを発揮できる可能性がある。AIはスポーツ科学における最後のフロンティアをも克服する可能性を持つ。
・ライフデザイン
AIは、もちろんスポーツ用品のデザインと製造プロセスにも革命をもたらす。AIは、光合成によって二酸化炭素を吸収する藻類を含んだインクで3Dプリントされた「低炭素キット」のような、サステナブルな素材開発さえ加速させている。だが、アスリートの生活空間もデザインの対象だと本レポートはカテゴライズしている。「アスレチック・ホーム」は、スマートホーム技術とAIを融合させ、アスリートの概日リズムに合わせて照明を調整、大気の質を監視し健康への影響を最小限に抑え、住居そのものを回復とパフォーマンス向上のための装置に変える。もちろん、アスリートがこうした空間に「住みたい」と願わなければ意味を持たないわけではあるが…。
もっと未来的なコンセプトは「共生デザイン」だ。AIを搭載した義肢やロボットは、もはや人間の動きを補助するだけではない。何百万ものトップ選手のプレー動画を学習し、完璧なペナルティキックの動作を自らが習得。そして、その最適化された動きを、装着者である人間に「教える」。人間がAIロボットを訓練し、そのロボットが人間を新たな高みへと導く。これは人間とテクノロジーの新たな共生関係の始まりを予感させる。
