AI

2025.10.16 11:15

AIとスポーツの未来 2025年の白書が示すその最前線と95%が陥る危険な罠 

Ground Picture / Shutterstock.com

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日常生活にAI生成による動画や音楽が出回るようになった現在において、スポーツもまた、その革命から逃れるカテゴリーではない。2023年サッカーワールドカップで話題となった「三笘の1ミリ」に代表されるVAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)や、毎日もたらされる大谷翔平選手の打撃データから、スポーツがテクノロジーから切り離されたカテゴリーと考えるファンは、もはや少数派だろう。だが、AI革命がスポーツを覆う速度は、その想像を超越するかもしれない。 

アラブ首長国連邦に拠点を置くテクノロジーホールディンググループ「G42」と英国の世界的な未来予測コンサルタンシー「The Future Laboratory」が8月、共同で発表した最新レポート「The Future of Sport and AI 2025」は、この変革の最前線を克明に描き出している。本レポートでは、スポーツ業界のシニアエグゼクティブ300名を対象としたグローバル調査と、各分野の第一人者への詳細なインタビューを敢行。そこから浮かび上がってきた「AIとスポーツの未来予想」は、楽観的な期待に溢れているものの、同時に見過ごすことのできない「戦略的ギャップ」が読み取れる深刻な警告でもある。

ここでは、本レポートを紐解き、いつの間にか日常生活に浸透した「AI」が、スポーツ産業に与える真のインパクトを、ビジネスリーダーの視点から分析。あらゆる業界が直面する未来の縮図を、スポーツに焦点を当て詳らかにしたい。(この記事は前編。後編はこちらから)


AIによる「スポーツの民主化」——エリート特権が終わる日 

かつて、最先端のデータ分析やパフォーマンス最適化は、潤沢な資金を持つトップクラブだけの特権だった。しかし、AIはその構図を劇的に変えつつある。レポートが示すもっとも重要な変化、それは「データ分析の民主化」だ。英国プレミアリーグのブレントフォードFCやブライトン&ホーヴ・アルビオンFCの事例は、その象徴。両クラブは、トップクラブの数分の一の予算で、データとAIを駆使したスカウティング手法を導入、3部リーグからサッカー界の最高峰へと駆け上がった。かつては専門家集団と高価なダッシュボード技術、そして巨額のイノベーション予算を持つ組織しかアクセスできなかった知見を、AIはより広範なチームに解放。この民主化の波は、巨大なビジネスチャンスを生み出している形だ。

世界のスポーツAI市場は、2024年の約1830億円から、年平均14.7%で成長し、2034年には約7165億円に達すると予測されている。「G42」のブランド&ブランドエクスペリエンス担当アレックス・ブルーノリ副社長は「これはピラミッドの頂点にとってはさほど大きな変化ではないかもしれないが、中間層にとっては劇的な変化だ」とコメントしている。

英国ではAIスカウティングツールが大学スポーツにまで浸透。才能ある若者が早期にプロの世界へ進む道が開かれれば、アスリートのキャリアは長期化し、ファンはより多様な才能に触れる機会を得る。すべてのアスリートがエリートレベルの分析を受けられるようになれば、トップチームはさらなる革新を迫られる。これは、業界全体のレベルを底上げする、健全なスパイラルを生み出す可能性を秘めている。 AIは、まさに玉虫色のスポーツの未来を予見させる。しかし、実はそこに大きな落とし穴があると、本レポートは警鐘を鳴らす。

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