AI

2025.10.16 11:15

AIとスポーツの未来 2025年の白書が示すその最前線と95%が陥る危険な罠 

Ground Picture / Shutterstock.com

95%が失敗する「戦略ギャップ」という落とし穴 

本レポートが警鐘を鳴らす大きなポイントは「戦略ギャップ」。調査対象となったスポーツ業界のリーダーたちの88%が自組織でのAI導入に肯定的であるにもかかわらず、驚くべきことに3分の2が「AI導入のための明確な戦略を持たない」と回答している。この矛盾は、致命的な結果を招きかねない。MITメディアラボは、企業における生成AIのパイロットプロジェクトのうち、測定可能な価値を生み出して本番稼働に至るのはわずか5%に過ぎないと算出。経営コンサルタントのアンドレア・ヒル氏は『Forbes』誌において「95%の試みが失敗。そのアプローチが原因」と断言。これはAIのみに限らず、日本でもひと頃流行った「DX(デジタルトランスフォーメーション)」導入の成否を振り返っても明らかだろう。

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問題はAIというソフトウェアにあるのではなく、単なるトレンド追随による貧弱な戦略、そして方向性の逸れた実行にある。これは日本スポーツ界においても「耳タコ」となっているが、スポーツ組織が戦略不在の言い訳として挙げるのは常に「社内の人材・専門知識の不足(23%)」、「予算とリソースの不足(18%)」と指摘されている。結果として、AIへの投資は場当たり的(32%)になり、外部のソリューションプロバイダーに依存する(25%)ケースが多くなる(末尾の%は同レポートによる数値)。戦略なき導入は、AIがもたらすはずの「民主化」を阻害し、結局はリソースの豊富な組織だけが利益を得るという、皮肉な結果を招く危険性をはらむ。

このパラドックスが持つ深淵な意味は、AI時代における勝者と敗者を分かつ主戦場が、技術開発の現場ではなく、組織の戦略策定能力と変革を許容する文化そのものにある点だ。つまり、明確な戦略と実行計画を持つ組織だけがAIの恩恵を最大化し、そうでない組織はせっかくの新たな武器を使いこなせないまま取り残される。結果として、AIは格差を是正するどころか、むしろ「戦略を持つ者」と「持たざる者」の間の格差を、これまで以上に拡大させる。

本レポートが示す最大の警告……真の戦いはAIを導入するか否かではなく、組織として具体的な戦略を描けるか否かにかかっている。日頃接している日本のチームやクラブに戦略があるとは、到底思われない。そもそもデータを読み解くというレベルに達していない。日本のスポーツ界が、もっとも苦手とするポイントだろう。

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