ビットコインの「サトシ・ナカモト」が自らの正体を隠した巧妙な手口

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また、ウィンドウズを主に使う人物がオープンソースプロジェクトを主導しているというのも、やや珍しいことであった。オープンソース運動はもともと、ウィンドウズのようにクローズドなシステムへの反発として生まれた経緯があったからだ。

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ビットコインのプログラマーたちは、その他の点については意見が分かれていた。ギャビンはナカモトを「能力的には上位10%に入るプログラマー」だと評価していた。一方、初期のビットコイン開発者であり、アナーキストのハッカーでもあるアミール・ターキはそうは思わなかった。

彼はロンドンの不法占拠住宅で暮らし、後に3Dプリンターで作る銃の活動家となって、シリア内戦でクルド人部隊と共に最前線で戦った人物でもある。彼は私に、ナカモトにはコンピューター科学の基礎がないのではないかと語った。

コードに関しては「ひどい書き方」

アミールは、ビットコインのコンセプト自体は堅実だと感じていたものの、コードに関しては「ひどい書き方」だと評した。プロの手によるような、整理されたモジュール構造からは程遠く、すべてが扱いにくい2つのファイルに詰め込まれているだけだったという。それを見てアミールは、ナカモトは大学の教授ではないかと感じたそうだ。

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「長年プログラミングをしていると、チームで仕事をする際に『いかに多くの人が理解しやすいソースコードを書けるか』を考えるようになる。明快でわかりやすい形で物事を抽象化することを学ぶんだ。つまり基本的なデザインパターンや、標準的な手法を身に付ける。

しかしこうしたことは、学者では身に付かない。エンジニアが重視するのは、『どうやったらバグのない、わかりやすいものを作れるか』という点なんだ」。アミールには数学のバックグラウンドがあり、ホワイトペーパーを読んだ際に感じたのは、数学的・統計的なツールを自在に操る手際の良さだった。

ギャビンは、ビットコインのコードが少数のメンバー、あるいは1人の人物によって書かれたのではないかという印象を抱いていた。プログラマーたちが共同開発を行う場合、通常は「この部分は何を意図したコードか」を説明するコメントをこまめに残す傾向がある。

しかしビットコインのソフトウェアには、そうしたコメントがほとんど見られなかった。一方で、ビットコインがあまりにも巧妙かつ最初からスムーズに動作しすぎるため、とても一個人の頭脳から生まれたものとは思えないという声もあった。ホワイトペーパーでは「we(私たち)」という言葉が使われている。サトシ・ナカモトという存在は、複数の人間もしくは組織の総称なのではないか──そう推測したのである。

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文=ベンジャミン・ウォレス 、訳=小林啓倫

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