ヘッジファンド「ファラロン・キャピタル」のアジア部門を統括したジョージ・レイモンド・ゼージ3世は、性的少数者(LGBTQ)コミュニティ向けのマッチングアプリ「Grindr(グラインダー)」へ投資によって莫大な富を築いた。現在、彼は次の「10億ドル(約1520億円。1ドル=152円換算)ビジネス」に挑もうとしている。
LGBTQ向けアプリ「Grindr」買収の出発点、強制売却から生まれたチャンス
2019年夏、シンガポール拠点の投資会社ティガ・インベストメンツの創業者でCEOであるゼージのもとに、ロサンゼルスの投資家仲間ジェームズ・ルーから緊急の電話が入った。Grindrの中国の親会社・北京崑崙万維科技(Beijing Kunlun Tech)が、米国の安全保障上の懸念を受けてアプリを売却するというのだ。懸念の理由は、このアプリが米国人のセンシティブな個人データにアクセスできる点にあった。ルーは、買収資金を集めるためのファンドを立ち上げる協力をゼージに求めた。強制売却の期限は2020年6月に迫っていた。
外部資金を募らず自分たちで実行すると決断
NASAのソフトウェアエンジニア出身で、テック企業買収会社の共同創業者でもあるルーが、その頃10年目を迎えていたGrindrの主要なデータをいくつか示すと、ゼージは即断した。「いや、ファンドを作って資金を集める手伝いはしない。この取引は私たち自身でやる」と彼は答えた。
フォーブス・アジアの8月下旬の独占インタビューでゼージが語ったところによれば、彼の興味を引いたのはGrindrの2つのデータだった。まず、ユーザーのエンゲージメントが非常に高いにもかかわらず、EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)が低いこと。次に、製品の改善によって利益率を引き上げられる明確な道筋が見えていたことだ。
ルーは、そのときゼージがカンファレンスのために訪れていた東京へ飛び、帝国ホテルのウイスキーバーで2人は落ち合い、取引の実現に向けた戦略を練った。そして、その年の10月、ゼージはサンフランシスコからアトランタへ向かう機内で、米国の連続起業家J・マイケル・ギアロン・ジュニアを新たなパートナーとして迎え入れた。両者は10年以上前、インドネシアとミャンマーで通信塔事業を展開し、利益を上げた実績を持っていた。
この3人は、Grindrが本社を置くウェストハリウッドのサンビセンテ通りにちなんで、「サンビセンテ・アクイジション」を設立。ゼージのティガ・インベストメンツがその合弁会社の54%を保有した。
競争入札を制し約924億円で取得
これはゼージならではのディールだった。「私の焦点は常に“スペシャル・シチュエーション”にある」と55歳の彼は語る。これは、複雑な要素やタイミングの制約を含む案件を指す投資分野の用語だ。3人は、他の入札者を退け、期限内にアプリを6億800万ドル(約924億円)で買収することに成功した。



